今、僕は人生の中で、最大の決断をしようとしていた。

 

下を見ると、澄み渡った景色が広大に広がっている。

 

あまりの高さに足が震える。

 

だが、やはり引き際は大切だ。

 

僕は、ありったけの勇気を振り絞って、身体を宙に投げた。

 

高さ約70メートルの断崖絶壁。

 

宇佐美ケ原はここ青木市にある自殺の名所だ。

 

毎年2~3人が、この場から身投げを行う。

 

生きることに限界を感じていた僕は、ついに決意を固めた。

 

もっと強い人間だったら、何か得意なことがあれば、人に好かれる性格だったら、こうはならなかったかもしれない。

 

けれど、僕はどれも持ち合わせていない。

 

勉強も運動もさっぱりだ。

 

コミュニケーションが優れているわけでもなければ、容姿が特段良いというわけでもないのだ。

 

しかも、不運なことばかりが続いた。

 

中学1年生の段階で既に上手くいかないことばかりだ。

 

今まで生活してきた中で、成功体験は何一つない。

 

この先、高校やその先まで頑張ったとしても事態が好転する保証はどこにもない。

 

身体が空に浮いた瞬間、「やってしまった」という感情だけが浮かんだ。

 

地面は僕に向かって、予想していたよりかもかなり速く迫ってきた。

 

その瞬間、僕の心の中に様々な思いが駆け巡った。

 

家族のこと、学校のこと、友達のこと...

 

嫌な思い出だけではない。

 

振り返ってみれば、美しい思い出も沢山あった。

 

日々の生活の中では、嫌なことばかりが頭に浮かんでいたけれども、忘れていた大切な記憶、楽しい出来事が次々と蘇る。

 

「そんなに早まらなくても良かったかな」

 

そう思った瞬間、僕は意識を失った。

 

 

あれからどれくらいの時間が経っただろうか。

 

生きている、という実感がそこにはあった。

 

朦朧とする意識の中で、ゆっくりと目を開けた。

 

起き上がろうとすると、身体中に激痛が走った。

 

それもまた、僕がまだ生きているということを如実にあらわしていた。

 

あまりの痛みに顔を顰めると、誰かの声がした。

 

「目は覚めたか?まだ、安静にしといた方がいいぜ。」

 

高校生くらいだろうか。

 

声の主は若々しい見た目と、筋肉質な見た目をしていた。

 

でも、何故だろう。

 

今、僕がいる場所は白一色のレイアウトの部屋で、まるで病院のようだ。

 

無論今まで来たことがない空間であることは間違いない。

 

だが、どこか肌に染みるような懐かしさを感じたのだ。

 

また、家のような安心感も同時に感じられた。

 

室内は暖かく、次第に強烈な眠気も襲ってきた。

 

僕はいつの間にか再び、眠りについた。