朽木祥さんの『風の靴』が、この春先に再版されました。最近の出版状況、特に児童文学の単行本のそれはとても厳しいようで、有名作家のものでもなければ中々再版はかからないようです。実にめでたいことです。
ということで、以前日記に書いてその後一旦公開を中止した、"『風の靴』こじつけ解読"を一部見直しの上、再掲します。
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ポッタリアンな人は御存知と思うが、昔「ハリー・ポッター友の会」に所属していた頃、私は原書こじつけ解読というコーナーを持っていた。J K ローリングさんは、人名や物の名前に凝っていたので、それを解読しようというものであった。
例えば、ホグワーツの校長はAlbus(ラテン語で白い)dumbledore(マルハナバチ) (=bumblebee) 、用務員はArgus(ギリシャ神話の百目の巨人。油断のない、用意周到な番人) filch(盗む、くすねる) 、その飼い猫はMrs. Norris(ジェイン・オースティンの小説マンスフィールド・パーク中の利己的でいじわるな婦人)といった具合である。
また、物語の中の日付や場所など、いろいろと推理して遊ぶのも面白い。遊ぶという点で言えば、原典至上主義というか、本に書かれたことはとりあえずすべて肯定し、それを解釈していくというのが、中々苦労するのだが楽しいのである。
さて、朽木祥さんの『風の靴』は、鎌倉から三浦にかけてが舞台となっている。その描写はかなり具体的で、章ごとに注が付いていたりして、地元ということも手伝って、私の「こじつけ解読魂」が刺激される。ということで、以下色々と勝手に解読・解説してみたい。
なお、以下は完全にネタバレなので御注意を。
まずは小ネタから
主人公 海生の部屋の様子がP23に描かれている。
【本】
並んでいる本は、十五少年漂流記、ソロモンの洞窟、夢を掘りあてた人、ディンギーセーリング、ヨット百科、野鳥フィールドワーク、日本の野鳥とある。
十五少年漂流記:ジュール・ベルヌの名作であり、名作全集含め何種類か出ている。最近のものは、完訳版で原題の「二年間の休暇」としたものが流通しているので、昔のものか、青い鳥文庫であろう。
なお、ニュージーランドが舞台という話がP38に出ているが、ベルヌはマゼラン海峡のハノーバー島が舞台といっている。しかし、島の描写などから、ニュージーランドのチャタム島ではないかという説が近年言われており、、椎名誠さんが『『十五少年漂流記』への旅』という本を書いたりしているのを指しているかもしれない。
ソロモンの洞窟:H R ハガードの代表作であるが、一般には「ソロモン王の洞窟」として知られている。「ソロモンの洞窟」という題名は、小学館の少年少女世界名作全集 35巻であった。1961年から1965年にかけて刊行されている。
夢を掘りあてた人:シュリーマンの話で、岩波書店から単行本と岩波少年少女文学全集22として1965に初版が発行されている。
風と波を知るコツ:この題名の本は見つけられなかったが、「風と波を知る101のコツ」というものがエイ出版社から1998年に出ている。
ディンギーセーリング: BABジャパンから2003年に出ている。
ヨット百科:雑誌「舵」編集部から1951年から1986年にかけて改訂版、新版が何種類か出ている。
野鳥フィールドワーク:発見できず
日本の野鳥:同名の本は多数出ている。
これらの本のうち、十五少年漂流記、ソロモンの洞窟、夢を掘りあてた人、は皆昭和30年代から40年代ごろに出ている少年少女向けの本の可能性が高い。
このことから、この本は、海生の父親が買ってもらった本ではないかと思われる。
【シーナイフ】
海生と田明は共にシーナイフを持っている。シーナイフとは、ロープなどが切りやすい様に刃が波刃になっているナイフのことである。
田明のナイフは蛍光で、暗闇で光ることから、ウィチャード社製のものと思われる。
http://www.neonet-marine.com/item/4675/Q5UMSKG00001.html 海生のナイフは、海の色のナイフで缶切り、ドライバー、栓抜き、ピンセット、マーリンスパイクなどがついていることから、マルチツールナイフである。
ツールナイフの有名どころはビクトリノックスかウェンガーであろう。しかし、ウェンガーにはマリン用のナイフはない。(ちなみに、ウェンガーは2005年にビクトリノックスに合併されていた。知らなかった)
ビクトリノックスには、マリナーNLとスキッパーNLというマリン用のナイフが存在する。いずれもケースは青い色で、標準のビクトリノックス・スイスアーミーナイフよりも少し大きいもので、より安全なようにメインブレードがロックされるようになっている。スキッパーにはワインオープナーがついているのだが、それには言及していないところをみると、マリナーだと思われる。
ちなみに、マーリンスパイクは何に使うかさっぱりわからないと海生はいっているが、これは一般にはロープの補修に使う千枚通しのような太い針で、濡れて締まったロープの結び目を解くのにも使われる。(このスパイクをマリーンスパイクと表記している本などもあるが、これは誤り。marineではなく、marline(二つ撚りの細い麻綱)である)
ビクトリノックスのマーリンスパイクは、シャックルキーを兼用しており、このシャックルキーのほうが出番は多いであろう。
次回は、場所の話です。