NHK「坂の上の雲」13:日本海海戦 | 物質の下僕

物質の下僕

語りえぬものには、沈黙しなければならない












let me have my enemies butchered

「大和魂(やまとだましい)! と叫んで日本人が肺病やみのような咳(せき)をした」

「大和魂! と新聞屋が云う。大和魂! と掏摸(すり)が云う。大和魂が一躍して海を渡った。英国で大和魂の演説をする。独逸(ドイツ)で大和魂の芝居をする」

「東郷大将が大和魂を有(も)っている。肴屋(さかなや)の銀さんも大和魂を有っている。詐偽師(さぎし)、山師(やまし)、人殺しも大和魂を有っている」

「大和魂はどんなものかと聞いたら、大和魂さと答えて行き過ぎた。五六間行ってからエヘンと云う声が聞こえた」

「三角なものが大和魂か、四角なものが大和魂か。大和魂は名前の示すごとく魂である。魂であるから常にふらふらしている」

「誰も口にせぬ者はないが、誰も見たものはない。誰も聞いた事はあるが、誰も遇(あ)った者がない。大和魂はそれ天狗(てんぐ)の類(たぐい)か」

これらは夏目漱石「吾輩は猫である」の中の一節。

戦勝気分に皆が浮かれる席で、これを引用したらしきセリフを劇中の夏目金之助に言わせるシーンがある。

さすがは漱石と感じ入ったのだが、、、

それに対して正岡子規の妹が、

「命を懸けて戦っている軍人さんに失礼じゃ」

と不快感露に金之助を難ずる。

あわてた金之助はいい訳をして、平身低頭謝るというくだりだ。

司馬遼太郎の原作にはないシーンであるらしい。


大変な違和感をおぼえた。

何にか?

夏目金之助がさっさと自説をひっこめて、謝ることにである。

しかも軍人に対する僻みであるというようないい訳までさせて矮小化してみせる。

これはもう夏目漱石ではない。ただの道化、青瓢箪ではないか。

彼の知性に対する侮辱である。

誰がこんな愚劣な演出をしたのか、とこちらが甚だ不愉快になった。

役柄上そう言っているだけの菅野美穂まで憎らしくなった。バカ女(笑)!

しかし、、、落ち着いてみると、

あまりにも違和感のある夏目金之助を意図的に挿入する事で逆に漱石の真意を視聴者に喚起しようとしたのでは?と。

これはうがちすぎであろうか。

そうでないことを願う。

同時に、もし表面づら通りの意図ならばこのドラマ自体が司馬遼太郎氏に対する背信と言うことになる。

司馬氏は戦争万歳、軍人万歳の物語など一行も書きたくなかったはずである。

少なくとも夏目金之助の慧眼は褒められるべきである。

金之助を難じ、金之助を笑った多数派がその先の敗戦へと至る道普請をしたのだから。

再びしかし、、、

表面的には、不愉快なシーンであった。