【傀儡】は2021年12月に書いた記事です

 



 

「互いに嘘偽りなく正直に」



しかし、

その約束は簡単に破られた



出会った頃は

確かに「信じ合えていた」



いや、



今となっては……そう信じたい



【傀儡】一章 二話


 

    「出会い」






私の両親は

私が6歳の時に離婚


私には二歳下の弟がいて


私は母親にそっくり

弟は父親に似ていた


兄弟2人を育てる事を断念した母


どちらかを

父親に引き取らせると決めた



父親、母親共に再婚



私は父親方に出されたが、



義母は母親似の私を

嫉妬心からか?猛烈に嫌った


実母が持たせてくれたアルバムや

着衣、小物、勉強本など


義母は、それを私から取り上げ

全て捨ててしまった


食事も満足に与えられず

給食だけが唯一の生きる糧



初めて明かすが

私は義母に殺されかけた事がある 



義母の私に対する憎しみは

想像を絶するものであった


私がいるから

義母は子供を産めないのだ



「お前は母親そっくりだ」



「何でここに来たんだ」



「子供がいるなど聞いてなかった」




6歳の私にそう怒鳴る

私は義母にとって邪魔な存在なのだ


父親は、

私より義母が大事で


私に「養子に行かんか?」

そんな事まで言い出した


当然、そんな環境だから

近隣や学校の通報で

児童相談所が乗り出してくる


私は幾度となく

「一時保護施設」に入った


この「一時保護」だが


夏休み、冬休みなどに

2週間程度の利用


有難いのは

「三食ご飯が食べれる」

「毎日布団で寝れる」

「勉強が出来る環境がある」



だが、


入室している女子中学生と

肉体関係を持つ施設長や

保護児童に暴力を振るう教員


子供ながらに

こういった施設の「闇」も

私は随分垣間見てきた


窓に格子が取り付けられた

外から遮断された世界では


やりたい放題


見られていないから

「何をしても外には漏れない」

これが「現実」だ



幼少期の過酷な環境に


私は

「生きる為に洞察力を身につける」


教科書で学ぶ生半可なものでなく


「生き抜く為の洞察力だ」


誰よりも早く先をよみ

誰よりも早く行動する


決して自分を表に出さず

相手を試して見極める

「信用できうる人物か?」を



殺されない様に

死なない様に


「生きるか」「死ぬか」の 


そんな世界で私は生きてきた


世間の同世代とは

次元の違う世界で


私は生き抜いてきた




何故、母親は自分似の私を

父親方に引き取らせたのか?


そこには、浅はかな女の感情

垣間見えてしまう


私は生涯、

この「女」を許さない


弟は父親似だ

引き離されてから数ヶ月

弟は私に会いたいと泣き止まず


母親は仕方なく

定期的に祖父の家に弟を連れてきた


私は母親と再会するも

私は「捨てられた」という意識があり

母親とは話もしなくなる



再婚を進めた者は

「その方が早く環境に慣れる」

そう言い放った


再婚の成功こそ

この人物の利益になるからだ


弟もまた

私と同じ境遇なのかも知れない


再婚ビジネスは建前重視で


子供の気持ちなど

何も考えずに決められる


幼い子供に親を判定するなど

不可能なのだ


犠牲になるのはいつも子供


捨てられた子供が

どんな人間に育つのか? 



私を見れば

分かるであろう?(笑)





でも、

世の中には更に過酷な環境で

生きている者達もいる



嘆いたところで

何も現実は変わらない


私は

想像を絶する幼少期を

逞しい生命力で生き抜き

勉強に勤しんだ



学校の勉強だけでなく

「自分1人で生きて行く為に」



親の世間体で受けた大学



行きたくなかった大学を

親に黙って中退し、S急便に入社する




義母の束縛、地獄の環境から

漸く解放された瞬間だ



三年間、起業資金を貯め

22歳で独立起業



商売家系であったからか

自然と商売人の路を辿った



そして、

100円ショップとの出会い



今までにない


「面白い商売」



「まだ先がある」



今では当たり前に固定店舗として

存在しているが

昔は「催事行商」だった


スーパーの店頭や催事場

公民館などを借りて

一定の期間販売をする行商


当時は「百円均一」の名称で

トラックに商材を積み込み

全国津々浦々売り歩いていた


この「百均催事」時代こそ

最も良く売れて


また、最も儲かった時代


当時、業界最大手の会社の代理店

(※DAISOではありません)


1ヶ月に1000万平均の売り上げがあり

還元率は20%、即ち手取り200万


色んな土地で色々な人と出会い

商品を並べれば「即完売」


放浪を好む私としては

本当に「天職」だったし

何よりも楽しかった


しかし、


FC所属していた会社が

不動産投資で失敗😵💧


そのツケは我々代理店にも及び

仕入れ価格upやロイヤリティupなど

かなり厳しい経営に変わった


そんな時、当時まだ弱小で

業界3位程度だった

DAISOの運営会社 大創産業から

代理店契約の誘いがあり


我々数人の代理店は挙って移行


奇しくも先代の社長に

拾って頂いた訳だ


勿論、会社移行は様々な障害もあり

金も時間もかかったが

何とか無事に商売が続けられた





DAISOでの催事販売

私が主に赴いたのは「滋賀県」


地元スーパーの平和堂

まだ他の業者参入も少なく

レートは高かったが(場所借代)

売れる店舗を独占出来た


その百円均一催事で訪れた

フレンドマート菩提寺店




当時持っていた携帯電話


まだ電波が入らない

田舎地域のスーパー

その店頭を借りての催事出店






開店間もなく1人の女性客が訪れた

髪は肩くらい、小柄な若い女性



アクセサリー売場辺りをウロウロ


私が商品補充の為に近づくと

その女性と目が合った


「高校生」か「大学生」位かな?


印象的な目


虚ろな、病的な……

言葉では表せない不思議な印象


初めて会ったのに

何か昔から知っている様な……


その雰囲気、容姿は

私の好みに合致する



その若い女性客が

後に私をストーカーに嵌めた

中原彩である







中原彩は、私と目が合うや否や

そそくさと逃げる様に立ち去った


何か不味い人に会ったかの様に


その独特の仕草が印象的だった





当時私には妻が居て

その妻は売場でレジ担当


「女に見とれてた」なんて


嫉妬深い妻には

絶対に話せない(笑)


妻とは1年前に結婚

まだ短大在学中に籍を入れ

卒業と同時に結婚した

妻は20歳、私が27歳


即ち、推察だと

この当時の中原彩は19歳位か…

まだ大学在学中かな?





妻とは

互いに「嘘や偽りなく正直に」

何でも話せる関係


商売の世界は魑魅魍魎渦巻く

嘘偽りだらけの世界で


せめて身内の間柄だけでも

誠の世界で生きたい


だから、


お互いが正直に

嘘や偽り、誤魔化しをしない

そう固く約束をしていた


余談だが、

妻に1度だけ浮気を疑われた事がある


この業界は

従業員の大半が女性であり


私にその気が無くても

酒の席で羽目を外す輩もいる


酔って私に抱きつき

キスをしてきたパート女性

所謂「肉食系」かな?


私も酔っていて不覚をつかれた



だが、

それを見ていた妻



その日の夜、妻は

私が寝ているベッドに腰掛け

薄暗い部屋で私に問いかける



私は酔って寝たふり



妻は延々と

私に抱きついた女性について

私に問いただしている

(妻は不満が募ると寝ている私に文句を言う)


だが、

この日は少々過激だった



私が寝たふりしながら

うっすらと目を開けると






「手には包丁!」

((( ;゚Д゚)))ひぇ~



一見、恐ろしい光景で

明らかにイカれた女なのだが



私は

そう云う女が好きだ



何があろうと

私だけを真っ直ぐ愛し


もし、


私が他の女に取られるならば

私を刺し殺す


まるで阿部サダの世界だが


そんな

「狂信的な女」を私は好むのだ


「そこまで私に惚れている」

「そこまで私を思っている」


包丁さえ持っていなければ

私は妻を抱き締めていただろう


それに

そんな女なら刺されても良い


何故、そこまで出来るのか?


それは、ただ嫉妬深いだけでなく


妻は私だけを見て

私だけを愛しているからであり


他の男と関係を持った事もない

生粋な女だからだろう


もし、そうではなく

後ろめたい事実があるならば

人の事は言えまい



1時間程度

包丁持った妻の小言を聞き


いつの間にか私は

そのまま眠りについた



翌朝、目が覚めると



私は生きている(笑)


横には妻が寝ている

どうやら気が済んだらしい(笑)




実は

私もこの時は猛省し、


この事件以降

アルコールを絶った


今も尚、

一滴も飲まない




6年後



時代は

移動販売から固定店舗へ


現在の100円ショップに切り替わり

私は事業を法人化


滋賀を中心に京都南、東大阪、

店舗総数34店舗


年商35億の会社まで成長


従業員数は380名を超えた



32歳で1億のマイホームを建て

年収も1500万超え




全てが順調だった





しかし……





人生とは「一寸先は闇」





最愛の妻が急逝する



「全てが順調過ぎた」


その代償は


妻の死だった……



「あり得ない」

「何かの間違いだ」



私は

生まれて初めて現実逃避に陥り

鬱病と診断されるまで疲弊

100kgあった体重は80kgまで減り

容姿も別人と化していた



だが、


司令塔が長く休む訳には行かず


脱け殻となっても

会社を経営しなければならない 




「私しかいない」




沈んでいる時間などないのだ



従業員の私を気遣う姿を横目に

以前にも増して働き続けた






無き妻の一周忌が近づいた頃



私はアルバイトの面接の為に

野洲市にある店舗に向かっていた


実は、

パート、アルバイト、社員

全ての面接は社長である私が行う


珍しい会社だと思うだろうが 


「店舗作りは人から」


人材とは

その店舗の命運を左右する


人選こそ

最も基本的且つ重要な仕事であり



「全ての責任は私が追う」



そう言った考え方から

述べ1500人以上の面接を行っていた




面接30分前には店舗に入り準備

例えアルバイトでも

私は真剣に相手に向き合う


それが「選ぶ」という

「上から目線的立場」の

祓うべき配慮だからだ


人選選びは第一印象が

大きなインパクトを与える


次に「正直か?」どうかだ

電話で事前に確認した内容を

もう一度確認して相違をチェックする




ところが……



面接時間を過ぎても

面接者は来ない……


事務所に確認したが、

「遅れる」といった連絡もなく


15分を経過した段階で

私は次の面接に向かうべく

店舗裏口から出ようとした時


店の従業員が私に言った



「面接の中原さん来られました」



「オイオイふざけるなよ」 


「何の連絡もなく」

「面接に15分遅刻はないだろ?」



だが、


一応は面接には現れたのだ

無下に断れば問題が生じる可能性がある



「面接だけして不採用」


そのつもりでいた



私は再び店舗の事務室に戻り

面接者に挨拶をした


面接者は

自己紹介する私に向かい

下を向いて



「遅れてすみません」と

謝罪の意を伝えてきた




「ま、お座り下さい」



私がそう云うと

彼女は「本当にすみません」と

下を向いて謝り続ける



私がもう1度

「お座り下さい」と言うと

彼女は漸く椅子に腰掛けた


彼女の名前は「中原彩」

私が遅れた理由を尋ねると

下を向いていた顔を上げた



その顔を見た瞬間、


「あっ!」「この娘は……」



7年前に

フレンドマート菩提寺で催事販売中

私が一瞬惹かれたあの女




正直、私は驚いた




「何という再会」



それも、

「何という時期に」




 が、



今は面接中だ

私は平静を装った




「遅れた理由を教えて下さい」




その質問に対し彼女は 

黙って下を向いた



私がもう1度尋ねようとした刹那

彼女は言った





「自転車で転んで……」





私は吹き出しそうになった(笑)


事故でもなければ

いい年した大人がコケるかぁ?


でも、


顔を上げた彼女は

真っ赤な顔をしていて


焦って来たのか、恥ずかしいのか

どこか痛むのか?

かなり汗も出ている

 


満更、嘘ではないらしい

笑わなくて良かった……



「怪我とか大丈夫ですか?」

私が尋ねると



彼女は「あ、ハイ」と答える



「遅れる場合は連絡して下さい」



私がそう云うと

落ち着かない素振りで

またまた「すみません」と言う




「多分、この娘は

トイレに行きたいのだろうな……」



漠然とそう思った私は

面接を手早く済ませる




通常、連絡なしで遅刻した面接者は

「不採用」が慣例であり

規則に載っとれば採用出来ない





しかし、私は……



 

あろう事か

この面接者「中原彩」を

従業員としてではなく


「女として」見ていて


妻を無くして1年も経たないのに

不謹慎極まりない行動を取った


私は面接書類に合格印を押し 

遅刻理由に「酌量の余地あり」の記載


自ら作った会社規約を破り

この「中原彩」という女を

自分のものにする為に布石を打った



正に、あり得ない行動であり


「採用」の連絡に

中原彩も驚いたのではないか?



「全く何てスケベ社長だ」



そう言われても

返す言葉はない……



この店は

私の直轄店ではなく

頻繁に訪れる店舗ではない


私は彼女を

私の膝元に置くべく


数ヶ月販売経験をさせた後

社員にし、事務員として

事務所に所属を置いた


事務員なら毎日顔を合わせる


事務所は彼女の家からは遠い


その為に「独身寮」なる名称で

新築4部屋のアパートを全部借りて

彼女をそこに住まわせた


この独身寮は

正に彼女を側に置きたい一心から

私が独断で決めたこと


彼女の為だけに新築物件を

まるごと借り上げた


会社の金を

私的に流用した様なものだな…😜



 


無き妻の一周忌を終えたある日



パートの事務員が帰り

事務所で中原彩と2人きり



社長のデスクの隣

そこが彼女のデスク


他愛もない世間話の後、

私は椅子ごと彼女に近寄り

こう言った




「私と付き合って欲しい」




何時も返事が遅い彼女だが

この時の返事は珍しく早かった



「ハイ」の一言



暫くして


「私でいいんですか?」



私の目を見て彼女は言った



何をやっても上手く行かない

自信を失っている者の言動だ



私は、

「何も出来なくても良い」


「ただ私に対して正直であれば良い」


「嘘や偽りを言わず、正直であれば」




私は彼女にそう言い


まるで子供を抱き上げるが如く

彼女を膝の上に乗せて抱き締めた


彼女は、

全身固まって緊張していたのを

今も鮮明に覚えている



7年ぶりの再会から

僅か6ヶ月


その数日後、彼女は

私の自宅で寝泊まりをさせた


彼女の両親がやってくる時だけ

寮に帰る(笑)


暫くして両親にも挨拶に行き

私達の付き合いは公然となった


私が唯一彼女に求めたのは


先妻同様に

「互いに嘘や偽りは言わない」




私達の約束




そもそも彼女は

「嘘を言える様な女ではない」



付き合いを重ねる内に

私は彼女を完全に信用していた



家事、仕事など出来なくても良い


ただ、ただ正直であってくれれば

それで上手くやっていける


「信じ合える間柄」


私が女性を選ぶ唯一の基準だ




気に入らないのは

「優柔不断」である事


自分の意見をハッキリ言わず

全て私任せにする


彼女は何も出来ない女だったが

私が望めば何でも従ってくれる

本当に従順で可愛い女だった



その従順さは良いとしても



しかし、だ



その性格は

時に自らの思考力や

決断力を失ってしまう


有り体に言えば


「私がいなければ何も出来ない」

「大きな間違いを犯す」


そんな女になってしまう


私は彼女に

「自ら決めて行動する意思」を

常に持つよう教えていった


「やるのか?」「やらないのか?」


「やるならば、いつまでに?」


特に「期限を設ける」事は

非常に重要であり


政治家や公務員の「検討します」は

「いつまでに」という

期限を設けていなければ


それは「誤魔化す」「やり過ごす」為の

単なる手法に過ぎない


毛頭から「やる気がなく」

だが、相手がうるさいから

誤魔化し手法で「ガス抜き」を行う


また、

「書面でのやり取り」を嫌う者は

信用してはならない


書面での回答を拒む理由は

後々に証拠になるからで

口頭での約束は適当に誤魔化せる


浴に言う

「言った」「言わない」論議だ


だから、

手紙やメールなどでのやり取りを

嫌う場合、これは、


後に約束を反故にする

そのつもりなのだろう


「やる」と言いながら

どうやって誤魔化し、時間を稼ぐか


長い時間をかければ

相手が諦めるなどと思っている


私は

「そう言う輩が」大嫌いなのだ



彩にはそうなって欲しくはない

だから「真」を教えてきた







無き妻の三回忌法要も過ぎ

頭に「結婚」の文字が浮かぶ


中原彩は

最後まで私に結婚してくれとは

1度も言わなかったが


当然、願望はあったであろう


子供も産みたかったかも知れない



しかし、私は……

「子供が出来ない身体」


妻と結婚前に付き合っていた女性

2回の妊娠で2回共に流産

子供が作れない理由で別れている


無き妻は

私の子供を3回妊娠し

3回共に妊娠3ヶ月程度で流産


私達は不妊治療を受け

検査して貰った結果、妻は異常なし




原因は私にあった




「無精子症候群」とは異なるが

この全ての項目に当てはまる訳で


婦人科医の指導を受けるも

改善は見られなかった


結婚は出来ても



申し訳ないが、

子供は出来ないだろうな……







私は

先妻を亡くしている


若くして専務の大役を担い

仕事、家庭、相当な重圧だったろう


中原彩に

亡妻の変わりは務まらない


それに

過剰なストレスを与えたくない

もう、亡妻の二の舞は御免だ




私は会社を委譲する決意をした




5年間で管理店舗全て

従業員含め委譲し、私は社長を退く


翌年から数店舗づつ

委譲、閉店を進めていった


この決断は

何も中原彩だけの為ではない

私の健康維持もある


それに、

この代理店システムは

いつか崩壊するだろう


だから、

先んじて「逃げる」訳だ



そんな時期に

突然、衝撃的な訃報が入った


              おわり



次回

下矢印【傀儡】第一章 「ホームレス」下矢印







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