ヴォーヌ・ロマネの教科書・・ビゾ | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る

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ドメーヌ・クドレィ・ビゾ ヴォーヌ・ロマネ 1er ラ・クロワ・ラモー 2002
購入日    2007年8月
開栓日    2009年10月8日
購入先    Alcoholic Armadillo
インポーター 出水商事
購入価格   11000円

ラ・クロワ・ラモーは非常に小さな1級畑で、ロマネ・サン・ヴィヴァンの一角みたいな所である。
上記のAlcoholic ArmadilloのHPによると、総面積0.5987ha、このビゾ以外には
ラマルシュとジャック・カシューだけが所有しているそうな。
クドレィ・ビゾの所有部分は0.2020ha、総生産本数833本となっている。

いくら立地が良くて生産本数が少なくて稀少だろうが、飲み手にとっては目の前の1本が
問題なのである。
これまで未体験の造り手だが、期待半分、おもしろ半分で開栓。

はああ、恐れ入りました。
これはわたしが抱くヴォーヌ・ロマネのイメージをそっくり体現しているようなワインで、
香りから果実から、絶妙なバランスで成り立っている。

最初は大人しく、時間とともにスパイス香が立ち上がってくるが、去年開けても来年開けても
きっと期待を裏切らないような安心感に溢れる。
実際に翌日になっても、昇らないもののほとんど落ちない。

こういう正統派美人的ワインは、よほど美人度が高くない限り、飲み手に記憶に食い込むことは
難しいだろうが、これはまさにヴォーヌ・ロマネの王道を行く美形ワインであると思う。

ラマルシュの造るクロワ・ラモーは「これが1級か」と思うほど軽々しいもので、
先日アキュイール☆☆で開けたラ・グラン・リューもその延長上にあった。

それに比べるとこのビゾの格調高さは別次元のもので、ブルゴーニュの銀座にあって、
こんなに無名でマイナーながらこんなにレベルの高い造り手が存在したことを知って、
正直驚きを禁じ得ない。


1974年にテイチクレーベルから、合唱団スクオラ・ディ・キエザによる
ロバート・ホワイトの「エレミア哀歌」というレコードが発売された。
どういう経緯か知らないが、このレコードは昭和49年度芸術最優秀賞を受賞した。

わたしもこの時初めて、16世紀ルネサンス時代の英国の作曲家である
ロバート・ホワイトという名前を知ったのだが、「エレミア哀歌」は
トマス・タリスの同名曲に匹敵する作品だとの印象を持った。

当時このレコードを聴いた今は亡き柴田南雄が、音楽現代誌に
「途中まで聴いてわが耳を疑い、新しい作曲家を発見した感動に襲われた。
 このような作曲家がルネサンス期に存在したのを、不見識にしてこれまで知らなかったのは
 不覚だった」
という旨の記事を残している(わたしの記憶による)。

柴田南雄は、作曲家・音楽学者・音楽評論家として名をなした人だが、彼をしてここまで
書かしめた名作曲家が、300年を経て忽然と登場したことに小さな驚きを覚えた。

クドレィ・ビゾを知らなかったのは単にわたしの知識不足であって、世間では周知の
造り手だったのかも知れないし、現存の造り手を発掘された過去の作曲家に例えるのもどうかと思うが、
まだまだブルゴーニュには知らない世界がある、との思いを抱く。

実際には気分よく酩酊し、ゆっくりと1本飲みきったのであった。