かつて大阪大学医学部は中之島にキャンパスがあり、附属病院は川向かいの
福島区にあった。
学生時代、研修医時代、大学院生時代、職員時代を合わせると、わたしは12年以上も
中之島近辺で過ごした。
徒歩ですぐだったロイヤルホテル(現リーガ・ロイヤルホテル大阪)には、
昼夜を問わず何度も訪れたし、いろいろな思い出がある。
このホテルは、かつては格式もサービスも大阪一のホテルであった。
ここでわたしは20年くらい前に結婚式を挙げたし、
その後生まれた子供たちは、もう2人とも大学生になっている。
6年前にわたしは病院を退職し、雀の涙のような退職金を手にし、町医者になった。
それ以来、地元医師会にお世話になっている。
その医師会は、年に2回全員を集めての会合をもつ。
その会場のほとんどがリーガ・ロイヤルホテルなのだが、今夜夏の会合があった。
今、RMシャンパーニュであるピエール・ジモネを飲みながらこのブログを書いている。
3分の1ほどジモネを空けて、ようやく胸の奥と上腹部から不快感が消え去り、
まともな感覚が戻ってきた。
それほど今夜の晩餐は耐え難いものであった。
かつては自分の庭であり、リラックスできる場所でもあった大阪最高のホテルが、
ここまで凋落してしまった姿を目の当たりにすることは悲しい。
過去6年間で10回以上、医師会の会合で、ここでフルコースを振る舞われ、
赤白のワインを飲んできたが、今日ばかりはついにキレてしまった。
料理に関しても大いに文句はあるが、好みの問題もあるからまあいいだろう。
だが、そこに出てくるワインのひどさといったら、もはや言葉にならないほどである。
1度や2度なら笑って済ませるが、毎度毎度6年にわたり10回以上もこんな
拷問のようなディナータイムを強制されるのではたまらない。
この宴会の料理とワインの詳細は、医師会の担当副会長I先生と、宮川(元?)料理長、
テラシマ(漢字不明)ソムリエによって決められるらしい。
毎度宴会の前には、料理長とソムリエが誇らしげに料理とワインの説明をされる。
今夜も「ワインは私が選びました」とテラシマ氏が説明をされていた。
赤ワインでは、時にフランスワインなら若いローヌ系のものが出てくる。
しばしばシラーのワインが出てくるが、これは副会長の好みなのかテラシマ氏の
ご推薦なのか?
これがテラシマ氏自らのお好みと言うなら何をか言わんや、という話ではある。
300人近い大人数の会合に、稀少なブルゴーニュワインを飲ませろなどと無理難題を
言っているのではない。
プロとして、無難な最大公約数を勘案しなければならない立場にあることを
自覚していただきたいものである。
予想通りあまりにワインが不味かったので、終宴近くにテラシマ氏に面会を求めたところ
すでに帰宅されていたので、若いソムリエの方に名刺を渡し、このブログの
主であることを伝えた上で(伝えてもどうということはないが)、
厳しく苦情を言わせてもらった。
さて今夜の赤白のワインだが、いずれも自宅では絶対に飲まないレベルのもので、
白はまだ許容範囲であったが、赤は大阪のまずい水道水にも劣るレベルの
飲み物であった。
こうなると好み以前の問題で、客にこれほどひどい飲み物を振る舞うとは、
もてなしの心に欠けている、とまで思ってしまう。
ソムリエの責任なのか、医師会側の責任なのか知らないが、医師会の責任者が
「仮に」味オンチだったとしても、その背後には約300人の医師たちがいるのである。
客は副会長1人ではない。
そのことを忘れてもらっては困る。
さて今日のメニューだが、型どおりのフレンチにこだわらない、創作料理とのことだった。
ファンタスチックな和洋の前菜”夏”6種はパレット皿の上に(メニュー原文のまま)
スプーンの立っているものは、明太子の下にムースが置かれていたが、
これが思い切り不味かった。
どうしてこんな中途半端で安っぽい甘みを乗せてしまうのだろう。
フォアグラのコロッケと夏大根のコンフィ、トマトソース
これは美味であった。量もほどよい。
冷たい南瓜のクリームスープとコンソメ 淺葱散らし
特選牛フィレ肉とポークのロール巻きロースト西京風味
エキゾチックソースと5種の温かいお野菜添え
毎度のことだが、フィレ肉の間にレンズ豆を裏ごししたもの?が添えられ、
これが肉の食感を大いに損なう。
また添えられた1品の味付けは最悪で、とても食べる気がしないので
両者とも残してある。
この1品に限らず、ソースに酸味が乏しく、もっさりした印象がつきまとうから
料理に華がない。
ロイヤルの料理は不味い、という定説はこの20年間でついに覆らなかったと思うが、
こんなところにも時代の流れを敏感に感じ取れない、老舗の動脈硬化を感じてしまう。
夏トマトとキュウリの甘酢風味
アーモンドの香りのブランマンジェと抹茶のアイスクリームと小倉、メリメロフルーツ添え
ブランマンジェの下に小倉あんが敷かれていて、その単純な甘さが興を削ぐ。
どうしてもっとお洒落なデザートができないの?
あ~、津路里のパフェが恋しい。
クロスマン 2004 (ボルドー)
テラシマソムリエによると、「シャルドネと間違えそうだが、喉を通ると違いに気付く
ソーヴィニオン・ブラン」とのことである。
香りは乏しく、一口目には少し複雑さは感じさせるが、おしなべて単純でドライ。
ドライならいいかというとそうではなく、アフターが短く単にそっけないだけ。
だが、次の赤に比べるとはるかにましではあった。
リベルタス ピノタージュ 2006(南アフリカ)
ソムリエは「ブルゴーニュと間違う」とおっしゃっていたが、こんなものをブルゴーニュと
間違えるなら、ワインなどに飲まない方がましだ。
これに比べると、先日開栓して酷評したレ・ヴァン・コンテが非常に洗練されたワインに
思えてしまうほどである。
若すぎる上に若さによるフレッシュさも皆無で、酸味も皆無。
ボージョレのガメイにも似た苺香もあるが、薄汚れた土壌を想起させて泥臭い。
こんなワインにどんな料理が合うのか、まったく選定者の感性を疑う。
(追記)テラシマソムリエの話では、まだピノタージュは日本では売っていないから今日が
初めてのお披露目です、などと言われていた。
しかしコメントで飲んだことがある、という方が2人もおられたため検索してみたら
700円台で売られている。
たまたま隣席がブルゴーニュ好きの親友で、ワインへの意見が一致して
ストレス発散できたのが幸いであった。
別のブルゴーニュ好きの同期生の親友は、300人の中からわざわざわたしを
探し出して、
「ひどいワインやな~、昨日飲んだニュイ・サン・ジョルジュとぜんぜん違う」
などと言いに来た。
「あたりまえやろ」と一言返す。
会が引けて、何人もの知り合いはわたしの顔を見て「今日のワインはどうでした」と聞く。
真面目に聞いているのは半分以下で、あとの人たちは、冷ややかに笑いを浮かべて
去っていく。
わたしに確認しなくても、答えなど分かっているのだ。
リーガ・ロイヤルホテルさん、300人も中高年の医者がいたら、ワインにこだわる
舌の肥えた人は多いんですよ。
彼らの冷笑に早く気付いて下さい。
そしてもう一度初心に返って、伝統と格式に恥じない食を求めて下さい。
古くからのファンからのお願いです。