またまたまた六覚燈 | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る

自宅でワインを開けて、グラス片手にブログを書くのは楽しいのだが、
六覚燈で1日に5本もワインを開けて、あとで記憶というか印象を辿りながらブログに起こすのは
ちょっと違う作業である。

鉄道紀行作家で文章の名手、宮脇俊三が「乗るは天国、書くは地獄」と書いていたことがある。
この言い方を借りると「飲むは天国、書くは地獄」と言っていいかも知れない。

店で過ごす数時間(おとといはほぼ7時間)は、実に幸せなひとときであった。
その印象がさめやらぬうち、やはり書き留めておかなくてはならない。
今回は5人で5本。うち白が1本である。


DOMAINE JOSEPH VOILLOT ポマール 1er Cru LES RUGIENS 1983
インポーター  メルシャン

今回は白も1本ということにしたら、最初に白が来るのではなく、これが来た。
まさにど真ん中の直球である。
中山さんは、わたしがこういうワインが一番好きなのはよくご存知だ。

2月始めに同じドメーヌ、同じヴィンテージのヴォルネイ1級畑を飲んだ。
果実味の輪郭は、前回のヴォルネイの方がはっきりしていたかも知れない。
並べて飲めば2本の差違は明確になるだろうが、前回と印象に大差はない。

古酒だが、ちっとも枯れた感じなどしない。相変わらず果実味溢れる新鮮さがある。
こんなワインをデイリーワインにしたいと切に思うが、経済的に贅沢であることをさておいても、
多少不満のあるワインを開けておく方が長生きできそうではある。


SONNHOF Urgesteins-Riesling Alte Reben 1997 オーストリア
インポーター エイ・ダブリュー・エイ

オーストリアのリースリングで、Trockenと表示があるし、こんな場面でベタベタしたものが
出てくるはずもない。
なるほど料理の味を壊さない、ほのかで上品な甘さがある。

いい意味で、ワインそのものに強い個性があって自己主張する、という1本ではなかった。
まあ、次の1本の個性をどれだけ際立たせるか、という心憎い演出である。


FRANCESCO RINARDI & FIGLI BAROLO 1967
インポーターシール無し

今回の目玉と言うべきか、なんと古い古いバローロが出てきた。
スイスの業者が保管していたものを、3年くらい前に1ケースくらい入れたそうだが、
よくも今ごろ40年前のバローロが残っているものだ。

言うまでもなくバローロはピノ・ネロでできるワインで、まあピノ・ノワールと同じだから、
この時代のバローロとなると、もはやくたびれているものが多いと聞く。

このワインはくたびれているどころか、長い長い、1分以上も続く残り香に驚かされる。
口腔内から去ったあと、こんなにも長い間感性をくすぐり続ける飲み物、というのは
最上級のワインでしかあり得ない。

正直な話、ブラインドで飲んだら「ブルゴーニュの古酒、テロワール不詳、80年代前半」
と答えてしまいそうだ。

このワインが少し残念だったのは、デキャンタした最初が最も力強くて、30分くらいで
酸味が立ってきたことである。
中山さんが空のボトルをふい、と鼻に当て、そのことをピタリと言い当てられたことに感心した。


アルベール・ビショ ジュブレ・シャンベルタン 1996
インポーター メルシャン

この造り手のものは六覚燈ではよく出てくるが、このジュブレの村名は初めてである。
同じワインのヴィンテージ違いは、店頭で購入して飲んだことがあるが、塩辛かった記憶がある。
ところが、今回の1本はまるで印象が違った。

今回のワインの中では、最もスタンダードでアタリマエな1本であるはずだが、
ブラインドで香ったら、「これってピノ?」と思ってしまった。

グルナッシュのように甘くまったりしたアロマがある。口に入れてもさっぱりと甘酸っぱく、
前後のワインと比べると単純明快で、だからこそむしろ新鮮味がある。
これでも10年ものだが、まるで若々しい。

この店に来ると、感性が世間の常識と乖離してくる気がする。
あとで考えると、こういうくっきりした輪郭が、ジュブレ・シャンベルタン村の個性かも知れない。

当然ながらこのワインは間奏曲で、次の1本とは価格で10倍以上の開きがあるはずだ。
それにしても、前後の横綱クラスのワインに挟まれていながら、品位という点ではひけを取らず、
よく健闘していた。選択者(中山さん)の手腕に脱帽。


ロベール・アルヌー ロマネ・サン・ヴィヴァン 1996
インポーター サントリー

「今日はグラン・クルを出していませんからね」という言葉とともに、最後に真打ちが出てきた。
本来ならこんなワインはもっともっと時間をかけて、変幻の妙を味わいたいところだが、
店では時間制限があるから、なかなかそうもいかない。

これまた飲み干してから長い長い余韻が続く。
ワイングラスの奥底から、あらゆる果実香が節度を持って立ちのぼり、さらに深くには
ほのかなスパイスの香りが明らかにする。

そして、このどっしりした複雑な体躯。
ブラインドでもはっきり分かる。
これこそまぎれもなく、ヴォーヌ・ロマネ村の、神に選ばれしグラン・クルである。

このドメーヌの力は相当なものだ。
わだまだ若いと言えるが、昨年ここで飲んだ、DRCのロマネ・サン・ヴィヴァン 1993より、
このワインの方が複雑さ、熟成度では上を行くのではないかと思われた。
まだ3月始めだが、今年の末までにこれを越えるワインに出会えるか、自信がない。

いつも自宅では実際にそのワインを前にブログを書く。
しかし、今日は思い出しながら書いている。
過ぎ去りし幸福な時間を思い起こしながら・・・

たいへん辛い作業ではある。