月のひかりはお屋根から、
明るい街をのぞきます。
なにも知らない人たちは、
昼間のように、たのしげに、
明るい街をあるきます。
月のひかりはそれを見て、
そっとためいきついてから、
誰も貰わぬ、たくさんの、
影を瓦にすててます。
それも知らない人たちは、
あかりの川のまちすじを、
魚のように、とおります。
ひと足ごとに、濃く、うすく、
伸びてはちぢむ、気まぐれな、
電燈(デンキ)のかげを曳きながら。
***
月のひかりはみつけます。
暗いさみしい裏道を。
いそいでさっと飛び込んで、
そこのまずしいみなし児が、
おどろいて眼をあげたとき、
その眼のなかへもはいります。
ちっとも痛くないように、
そして、そこらの破ら屋(アバラヤ)が、
銀の、御殿にみえるよに。
子供はやがてねむっても、
月のひかりは夜あけまで、
しずかにそこに佇ってます。
こわれ荷ぐるま、やぶれ傘、
一本はえた草にまで、
かわらぬ影をやりながら。
『月のひかり』 金子みすヾ 童謡集より。
この季節になるとよく思い出す詩。
あたりまえにあるものにも目を向けられる、
心に余裕があるヒトになりたいです。
