『イナズマイレブン アレスの天秤』の吉良ヒロトが祝福されるということ:彼が導く"社会的居場所"論 | ツゲにツツジを接いだそれ

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感想と解釈のブログ

ごきげんよう、柘榴です。

最近、絶賛爆熱展開中の『イナズマイレブン』シリーズに絶賛再熱しております。
無印当時からの自分のお気に入り選手は風丸と佐久間とアフロディです。それはもう全員もれなくボコボコになるアニメ二期はヒーヒー言いながら観て、原作ゲームでは当然全員自チームに引き入れるくらい。
そんなわけで、新シリーズ『アレスの天秤/オリオンの刻印』からの新選手でも「まあそういう長髪の線が細そうなタイプにハマるんだろうな」と思うじゃないですか。
自分が今たまらなく大好きになっている新選手は、





吉良ヒロトです。






【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン オリオンの刻印』第1話より】

今回は吉良ヒロトの話をさせてください。







吉良ヒロトは新シリーズ『アレスの天秤』からの新選手(正確には無印時代からいるにはいるのですが、説明するとややこしいので割愛)で、作中大財閥である吉良財閥の御曹司にして自他共に認める不良少年です。
『イナズマイレブン』シリーズではしょっちゅう人が事故に遭ったり、不適切な家庭に生み落とされたり、そして真っ当な人格形成時期から外れた「不良」な選手が多々登場します。吉良ヒロトもその一人と言えばそうなりますが、しかしながら彼は、個人的にそのカテゴライズをぶち抜く程かつてなく"刺さる"生き方をしていました。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第18話より】

高所得家庭出身だけど適切な育ちを与えられなくて、


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第18話より】

最悪なストレス発散方法しか覚えられなくて、


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第18話より】

自分なりに居場所を探して、


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第18話より】

出自についてどこかコンプレックスを抱えてしまう。
そういう子どもだったのです。吉良ヒロトというストライカーは。

シリーズにおける「不良」選手は、大抵見るからにボロボロな家庭環境であったり凄惨な事故被害者であったりするのですが、吉良家は家庭内がわかりやすく荒れているというわけでもないし、今期では全員生存しているし、むしろ家なんて大豪邸の高所得家庭です。
だからこそ、一見何不自由なさげな「裕福な子ども」でありながら自立のための養育を放棄された「不健康な子ども」として生きる吉良ヒロトの姿が、自分には見れば見るほど鮮烈で眩しく映りました。

わかりやすく滅茶苦茶な家庭でなくても、当人にとっては世界からはみ出たと感じてしまえばどうしようもないんですよ。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アウターコード』第2話より】

吉良ヒロトは「不良」を強調する演出として度々口元(風船ガム)と挑発的な決めポーズの動作、また大量のアクセサリーが映されますが、あれらは文脈としては喫煙とピアスのメタファーであると自分は思っています。
まあその解釈がこじつけにしろ、ヒロトはメタファーとして自分の身体を傷付ける行為をしている、もしくはそのまま「見た目が"怖そう"と称される」「家に帰らない」「悪い仲間とつるんでいる」「喧嘩ばかりしている」と悪そうなことは一通り行っていることが示されています。
吉良ヒロトは異常にストレスのかかる星の下に生まれさせられたうえ、適切なストレス発散方法も身につけてこられなかった子どもでもあるのです。そりゃあグレたって言われるわ。


他者との望ましい交流能力が養われていないヒロトは、そんな風に適切なストレスへの向き合い方を知る機会も与えられなくて、宜なるべきかな社会的居場所も持っていません。
ヒロトの「不良」描写としてもうひとつ、「学校に行っていない」という不登校児設定があります。永世学園サッカー部に所属済の本編時間軸では「クラスや授業に出席していない」と言ったほうが厳密かもしれません。いずれにせよヒロトは、作中では最後まで制服描写もなければろくな学生描写もありませんでした。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第18話より】

当たり前のように私服で時間外登下校してきます。

自分が吉良ヒロトに惚れ込んだきっかけでもあるのですが、この「御曹司/不登校児/ゴッドストライカー」のトリプルスタンダードが滅茶苦茶好きなんですよ。言ってしまえば"部活もの"ジャンルであるアニメで制服も着ず授業にも出ずサッカーをする時間だけふらっとやってきて、あまつさえエースの座にいるんですよ……最高だしヤバくないですか……ヤバいですよ……(脳内奥入)


吉良ヒロトは学校に行きません。そも、彼が在学する永世学園自体が吉良財閥の建てた施設で、永世サッカー部も吉良財閥をスポンサーとして成り立っているチームなのです。
よりによって親が出資して親の銅像が建っている学校にヒロトがわざわざ足を運ぶだけでも彼の精神的労力は想像に難くないのに、親の強制で入部した永世サッカー部内でも、ヒロトは独りよがりな態度から当初チームに馴染めていませんでした。

とりわけ、財閥が運営する児童養護施設出身で、ヒロトの実父から自身にない愛情を注がれている(とヒロトには映る)チームキャプテン・基山タツヤに対しては、ヒロトは「親父から期待されている奴にはわかんねーよ。何も、何一つな」と愛されなかった自身と比較し強く当たっていきます。
タツヤもタツヤで「父さん(ヒロトの実父)に本当に愛されてるのはヒロトだ」と反論してくるし、この認識の違いも解消できないままヒロトはタツヤ、ひいては彼率いる永世イレブンのことを大会直前に突っぱねてしまいました。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第18話より】

今のヒロトが持ち得る価値観での選択肢は「家庭内で愛されている」か「家庭内で愛されてこなかった」の二択のみです。
適切な養育を受けず成長した子どもが考えつける選択肢はあまりにも少ない。健全な価値観形成のタイミングを逃したまま、そんな視野が狭い状態で自分の居場所を模索する道のりは大変な徒労となってきます。
くわえて、日頃は傲慢なまでにオレ様で自信過剰に振る舞うヒロトですが、前述したタツヤとの口論でも顕れたように、家庭やコミュニティの問題になると途端にセンシティブに苛立ちます。
すなわち、吉良ヒロトに生まれながら蔓延る親問題とは、彼に対し"コンプレックス"という大きな足枷として、自己承認にも対人関係にも蝕んできてしまっているのです。

いくら家出を繰り返しても、悪い仲間とつるんでも、たまに学校にきてみても、吉良ヒロトはコンプレックスに足をとられ独りきりです。
ついには大会をフケて、居場所のない世界をふらふらとし、自己を見放し、幼少期から愛していたサッカーすら手放そうとしていきました。



それでも、吉良ヒロトは自らの足を動かし続けました。大好きなサッカーを諦めませんでした。




【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第18話より】

タツヤがかつて家庭外で自己を承認してくれたことを思い出し、


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第19話より】

タツヤが今いる場所へ自らの足を進ませ、


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第19話より】

タツヤと共に走り出すために!

吉良ヒロトが切り拓いた道は「親問題を切り離してしまうこと」でした。
ヒロトはタツヤによって家庭の外界に気付き、家庭不和に振り回されること自体からバッサリ切っていったのです。「親に認めてもらう」ことよりも「タツヤの夢の助っ人となる」ことを選択し、自身の足でタツヤがいる場所まで飛び込む。そのことを実現した瞬間の世界の目映さは、ヒロトの視界ではどんな必殺技よりも強い光を放っていたことでしょう。
基山タツヤの夢の助っ人として初めて家庭外の景気を見た吉良ヒロトの前に、親にまつわるコンプレックスなんてもう敵ではありません。そこにいるのは掛け値なく傲慢で、オレ様で、自己肯定感に祝福された最強のストライカーなのです。

文字通りに家庭の外界へ飛び出した吉良ヒロトは、文字通りに自らの力で上昇していきます。この溢れだすパワーは、ヒロトの超次元サッカーとしての演出に一貫される「自らの力で高く上昇する」パフォーマンスで顕著に表れています。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第19話より】

オレ様に駆け抜けてく!地平線越えてゆく!!

ヒロトの得意な戦法は、抜群の動体視力でぐいぐい上昇して攻めるワンマンプレー。それは今日まで一人で価値観を形成してきた彼の生き様の象徴でもあります。
同時にそれは、吉良家のことに縛られながらもギリギリのところで自暴自棄にならず、自己と自身の大好きなサッカーを愛し通せたヒロトの誇り高さと呼べるのではないでしょうか。

吉良ヒロトへの祝福は終わりません。彼の次なる幸福は、初めて気付けた基山タツヤという外界との繋がりが、現在のコミュニティを自身の居場所に転じさせる土壌となっていたことです。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第20話より】

吉良ヒロトの苛烈なワンマンプレーを、永世イレブンは次第に受け容れ、なんとそのままチームプレーへ組み込んでのけました。
シュートと変わらない威力の強烈パスに代表される歪なコミュニケーションしかとらないヒロトと、それを字義通り全部受け止めるタツヤ率いる永世イレブン。これはサッカーに留まらず、比喩的にも直接的にもヒロトの人間性がコミュニティで受容された瞬間です。
吉良ヒロトは、家庭の外の居場所を見つけ、掴み取りました。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第20話より】

家に一人きりでサッカーをしていたヒロトが初めて外に出たきっかけはタツヤです。そして、ヒロトが初めて家庭以外の選択肢に気付けたのもタツヤがきっかけでした。この「家の中で一人でサッカーをやっていたヒロトが、タツヤと出会い家の外でサッカーするようになった」流れが「親の愛情と家庭の居場所しか選択肢を持てなかったヒロトが、タツヤへの夢の手助けと愛情で家庭外の居場所を掴めた」メタファーに直結しているのはあまりにもストレートで、ヒロトの纏うオーラのように輝いてやみません。
吉良ヒロトは基山タツヤに自身の在り方を承認されるし、基山タツヤは吉良ヒロトに夢を後押しされる。それらの爆発的な相互作用により、サッカーチームという吉良ヒロトの居場所は強固さを増していきます。

居場所を見つけた吉良ヒロトは、合体必殺技だって放てる!!


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第20話より】

「「コズミックブラスター!!!!」」

コズミックブラスター、吉良ヒロトが基山タツヤとゼロ距離になる技なんですよ……あの他者との距離が開けに開けてた吉良ヒロトがですよ……ヤバくないですか……ヤバいですよ……(脳内奥入)

接戦の末、この試合でヒロトたちの所属する永世イレブンの敗退が決まりました。しかしながら、ヒロトはサッカーを手放すこともしなければ、大会後も自分の意思で永世イレブンに留まることを選びました。
吉良ヒロトは家庭以外の居場所を見つけ、選択し、自己決定し、祝福されたのです。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第24話より】

結局のところ、吉良ヒロトの家庭問題はいまひとつ解決していないし、最後まで部活動以外は不登校のままでした。しかし、ヒロトにとってはそんな今がサイコー幸せなのです。タツヤとのサッカーチームという選択肢に気付いたヒロトは、家庭を切ってそこでなんだかんだ仲良くやっていけている姿が描写されていきました。それが、彼が導いた社会的居場所に対するアンサーなのでしょう。
初めは親の強制で入れられたコミュニティである永世イレブンだったけれど、そのような出会いも結果としては悪くなかったのかなと自分は思います。親の問題は強制的でも、子ども同士のかかわりは子ども一人ひとりの意思で決定づくのですから。


『イナズマイレブン』シリーズに触れた現実世界の子どもにも、ヒロトのような「裕福で不健康な子ども」や不登校児は確実に存在します。ならば、外れたり不登校のままエースストライカーの座にいる子どもが登場して然るべきじゃないですか。
「御曹司/不登校児/ゴッドストライカー」のトリプルスタンダードの属性を祝福されるまで内包した吉良ヒロトの存在は、ある種の救いであると、少なくとも自分は思っています。

おそらく、自分が風丸や佐久間やアフロディとはまるでタイプの違うヒロトに惹かれていったのもそういったところが起因しているのでしょう。
吉良ヒロトの生き様には、子どもの頃の自分をハグできたような嬉しさと愛しさが込み上げてきてしまうのです。


だって吉良ヒロトは、祝福されたゴッドストライカーだから!!



【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第20話より】

出生家庭に恵まれなくても!!違う出生境遇の子のパートナーになれる!!!


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第20話より】

不登校児でも!!!フットボールフロンティアに出場できる!!!!


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン アレスの天秤』第20話より】

家庭外の居場所にたどり着ける!!!!!


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン オリオンの刻印』公式サイトより】

日本代表にだってなれる!!!!!!







全力でハグしたい…………代表入りおめでとう…………。

基山タツヤと共に部活のユニフォームを脱いでサッカーをする。この約束されたゴールこそ、吉良ヒロトにとって何よりの福音だと思います。親が建てた学校の部活動・親がスポンサーであるチームから脱してサッカーができることはそのまま家庭からの侵食を防いだことを意味しており、ヒロトにとってこれほどの祝福はありません。
※チームやメンバーとしての「永世イレブン」がよくなかったという意味ではなく、あくまで「親の傘下で運営される組織」という運営形態に焦点を当てた場合の話です。誤解なきよう。

家庭のしがらみをすべて断ち切ったヒロトに怖いものはありません。コンプレックスであった親問題を振り切ったヒロトには、あとはもう自身を好きになる要素しか残っていないのだから。
吉良ヒロトは、こちらには計り知れないくらい、自己のことが大好きなんですよ。


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン オリオンの刻印』第2話より】

OPで物語的キーパーソン(後ろの一星くん)を差し置いて一人ノリノリでキメていたり、


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン オリオンの刻印』第1話より】

ポージングのセンスが一人だけ少し違ったり(かわいい)、


【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン オリオンの刻印』第1話より】

完敗しても一人だけ自信満々でいられたり。つくづくサイコーな性格か。

というよりも、ヒロトって土台「他者の機微を読み取りながら物事を見る」という人的環境・対人経験からくる能力がまったく養われていないような言動がちらほらあるんですよね……そういうとこだぞ……愛しすぎか……。
自分一人で価値観を作ってきたから感性が少しズレているけど、きっと今はそれでいいんです。ヒロトが自身で決めた居場所の中で、自己を愛せて楽しそうならそれでいいのだと思います。

てっぺん目指すどころか突き抜ける、大舞台に乗っても負けない天井知らずの自己肯定感さえあれば、吉良ヒロトは名実共にゴッドストライカーなのです。



【©LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京/『イナズマイレブン オリオンの刻印』第2話より】

がんばれゴッドストライカー!!!!


今記事で書いてある解釈は、あくまでいち視聴者が感じた個人的見解です。まとまりのない文章でしたが、吉良ヒロトがそれほどの熱量を生み出すような選手であることが伝われば嬉しいです。もし伝わらなくても「コイツまたヤベーCV:増田俊樹キャラ引き寄せてんな」くらいには何か感じていただければ幸いかと。
次週の『イナズマイレブン オリオンの刻印』第3話ではヒロトがひと暴れするようなアオリ方がなされているので、なんだかマジで勝利してほしいです。
吉良ヒロトの今後の活躍に、心の底から期待しています。

これからも吉良ヒロトと、吉良ヒロトと同じ道を生きざるを得ない子どもたちに溢れんばかりの祝福を。

それでは。


(追記)
『オリオンの刻印』第3話の吉良ヒロトが最高過ぎたのでまたヒロトについて書きました。