Day280-ここまでのあらすじ

 コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。

まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。施設のケースワーカーは電話はしているが、例によって、莉子とは繋がらず、コオは”要望文書”という形で莉子を話し合いに呼び出すよう、要求する。コオは友人の響子に、今回の件を莉子を無視して進めてもいいものかどうかを相談し、

”期限を決めて、その間に返信がなければ、コオが手続きを進めるべき””大事なのは、お父さんの意志”とアドバイスを受ける。

老人保健施設のスタッフの対応は遅く、1週間放置のうえ、週末前日の金曜日に”連絡をください”と張り紙を張ってくるというお粗末さであった。

全て水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹だけが大事なのだ、としみじみと思った。

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コオは父の

『心配なのは妹の莉子だけだ、お前は便利屋だ』
 
という言葉に自分でも驚くようなダメージを受け、コオは、自分をどう支えていいのか、もうわからなくなっていた。
そして、この年が明けた頃、ある自己啓発セミナーに参加することになる。
 
自己啓発=うさんくさい

と近づきもしなかったコオが、最初にセミナーの勉強会(要は勧誘のためのイントロダクション)なるものに数千円とはいえ、支払って出かけたのは、やはり、かなり弱っていたからだろう。勉強会の内容は、もちろん、そのセミナーの紹介。

大人になっても親で苦しむ人はたくさんいる。今の自分は過去が作っている。でも、いつまでも過去に支配され続けるのではなく、そこから、前に進むためには助けが必要で、そのためのワーク(とそのセミナーでは言っていた)、その環境を提供する、という趣旨だった。それにはカウンセリングもついていた。

 セミナー代表でもあるカウンセラーは、コオよりも若い男性だった。コオが覚えているのは、スライドを映しながらセミナーの趣旨を話す上廣というその代表が、言った言葉だ。

「親の毒から抜け出して、そこがゴールじゃないんです。その先があるんです。毒から抜けたら今度は前を向いて、自分の人生を生きなくちゃいけない。ぼくはそこまでお手伝いします。」
 

そして、その勉強会の後、上廣代表にコオは尋ねたのだ。

「前を向こうにも・・・もう私は離婚までしてしまいました。もう末期です。そんな私でも何とかなるんでしょうか?」

上廣代表は、特に力強くはなかったけれど、ちゃんとコオの目を見てうなずいた

「大丈夫です!」

コオは、貯めるには数年かかった貯金を使い、参加を決めた。