Day280-ここまでのあらすじ
コオはメンタルとともに体調を崩し、さらに激しい物忘れに悩まされつつ、年を越した。そして、父が倒れて1年がたった頃、再び高齢者住宅の紹介業者・藤堂から、”施設に空きが出る”という連絡をうける。空くのは確定であり、コオはすぐに動き出す。
まずコオは現在の老人保健施設に『すぐにキーパーソンである妹と話し合いを持ってほしい』と連絡をする。施設のケースワーカーは電話はしているが、例によって、莉子とは繋がらず、コオは”要望文書”という形で莉子を話し合いに呼び出すよう、要求する。コオは友人の響子に、今回の件を莉子を無視して進めてもいいものかどうかを相談し、
”期限を決めて、その間に返信がなければ、コオが手続きを進めるべき””大事なのは、お父さんの意志”とアドバイスを受ける。
老人保健施設のスタッフの対応は遅く、1週間放置のうえ、週末前日の金曜日に”連絡をください”と張り紙を張ってくるというお粗末さであった。
全て水の泡になったことで、コオはひとりでやけ酒をのみながら、父は、妹だけが大事なのだ、としみじみと思った。
響子にすべてを携帯から報告した後電話が鳴った。
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「・・・藤堂です。嶋崎さん、お疲れさまでした…」
夜、かかってきた電話は、高齢者住宅紹介業者の藤堂からだった。
「ああ、藤堂さん。すみません、明日にでもお詫びをしなければ、と思っていました…。」
すでに頭はじんじんしていて、深酔い、ではないにしてもかなり酔いが回っている、と自覚できるくらいには酔っていた。同時に、お世話になったにもかかわらず、手間をかけさせただけに終わった、藤堂へは礼儀正しく謝罪しなければと思うくらいの理性も、残っていた。
「あの、今回の事、本当にすみませんでした。まさかこんなことになるなんて。」
「いったい、どうされたんですか?」
実は、コオは数時間前に、携帯が電池切れになりかけていたところで、用件のみで失礼します、と前置き付きで、
”老健のスタッフ把握した妹の意向と、父の把握に齟齬がありました。誠に残念ですが、今回は、スキップさせてください、本当に申し訳ございません。”
「いったい、どうされたんですか?」
実は、コオは数時間前に、携帯が電池切れになりかけていたところで、用件のみで失礼します、と前置き付きで、
”老健のスタッフ把握した妹の意向と、父の把握に齟齬がありました。誠に残念ですが、今回は、スキップさせてください、本当に申し訳ございません。”
と謝罪文を送ってあった。もちろん後で、電話はするつもりだった。
「もう、父が訳が分からないんです。何の問題も・・・なかったはずなのに。妹のYESが絶対的なYESではない、とかって言って。しかも、施設にはいきたい、というんです。」
「は・・・それは・・・」
藤堂も困惑しているようだった。
「もう、私もわけがわからなくて。妹が父に直接OK、と言わなかったからなのもしれません…けど・・・」
「あの、嶋崎さん。次は、妹さんとお父さんがOKといったときにしましょうか」
藤堂はいつものように柔らかな声で、今回は少し気の毒そうに、言った。
「すみません、お手数ばっかりおかけして。折角、ここまでお膳立てしていただいたのに。ごめんなさい、この後どうするか、考えさせてください。今日私、そのう、やけ酒飲んじゃってて、正確に考えられてないと思うので。またご連絡させていただきます。
本当に、本当にすみません。私は、父に移ってほしかった。父も移りたかった、なのにどうしてこうなってしまったかわからないんです。妹の顔色ばかりうかがう父もわからない。やっと、今度こそ、家に帰れる、って、そう思ったのに・・・」
泣き出しそうになりなりながら、コオはひたすら謝り、飲んでしまっているので、後日また、とようやく、もう一度言って電話を切った。

