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これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day136-あらすじ
父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけた。
コオは病院のケースワーカーと話をつけ、自分を連絡先の一つに入れてもらった。
父・莉子のことに加え、夫と通じ合えず孤独感に苦しみ、壊れていくむコオ。
離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続ける。
コオは、父と面会時に、莉子はパイプオルガンで仕事をしていくつもりだ、と聞いていぶかしく思う。また、
金銭的に恐ろしく莉子が甘やかされていたことを改めて知る。
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コオの引っ越したアパートは、最寄りの駅から結構離れた場所にある。
だからバスがメインの交通手段になっていて、異なるバス会社の路線が、何本も通っている。実家も同じように最寄りの駅から離れていたが、あそこはバス停まで行くのに15分以上歩く必要があったから、今のアパートの方が便利といえば便利だ。
とはいえ、父の入院している病院に行くには、まずバスか自転車で最寄りのJR駅まで行って、そこから電車に乗り、
更に病院のある駅から20分ほど歩かなければならない。
自転車で行くのも、すり鉢の底から駅まで登るわけだし、そこから乗った電車は一度乗り換えが必要だ。そんなこんなで、面会自体が1日がかりの大仕事になってしまった。一方、1日に数本しかないが路線バスに乗れば、もう一つ離れた駅が終点で、電車は乗り換えなしで行ける。
コオはこの市営のバス路線が気に入って、その時刻表をプリントアウトして部屋に貼った。
この日、コオは週末に父のところに行って、以前、ケアマネージャーの立石にいわれた、父の気持ち、というのを聞いてみることにした。
「パパ、具合どう?」
「うん、まぁ、変わらないかな。少しずつ歩いてるよ。部屋に話し相手がいないのが詰まらんけどな。」
ICUほどではないが、脳血管外科という病院の性質上、老人が多いうえに、ほとんどの人がしゃべる機能に問題がある人たちだ。もともとおしゃべり好きの父にはちょっと辛いものがあるのだろう
「あのね、立石さんから伝言で、これから、パパはどういう風に生活していきたいか、聞いてほしいって。私はもっとリハビリが必要だと思う。前と同じに朝散歩だけして、電話もできない、外も出られない、莉子の食事を待つだけでベッドの上で横になるような生活していたら、せっかく病院でよくなってたのがまた逆戻りする。気づかないうちにまた脳出血してた、なんていうのは良くないと思うんだけど… 。」
「ああ、一度に言わないでくれ、頭がついていかない。」
「だから、パパはもうすぐ退院なんだよ。」
「うん。」
「で、前の退院の時と、同じ生活はダメなんじゃない?ってこと。」
「でも莉子ちゃんが。」
「莉子は、私にはどうにもできない。すぐヒステリー起こすし。だから、大事なのは、パパの希望をパパ自身が言うことなの」
「例えば?」
「立石さんとか病院の人の前で、自分はデイケアに行きたいです、リハビリをたくさんしたいです、っていうこと。」
「・・・それだけでいいのか?」
「そうだよ。今まで莉子が邪魔するから、一度もちゃんと立石さんに直接話したことないでしょ?だから、言うの。リハビリをたくさんして、元気なままやっていきたいです、って。」
「…ふーん、じゃぁ、それやるのにどれくらい費用かかるのか見積もってくれないか?」
父は工場で働いていた。何か新しいことをするのにあたって、すぐに見積もり、という。逆に見積もりを頼むということは、やる気があるということだ。
「もう見積もりしてもらった。月に2万円くらいだよ。お母さんが私にって残したお金使うつもり。だから支払いは私に回せばいい。」
父は、覚えていないのだろう。連休の後、あの莉子に追い出された日、父に伝えたのと同じことをコオは言った。父な頷き、傍らのノートに、2万という金額とリハビリ、という字を書きつけた。もともとメモ魔だった父は、字を書く訓練も含めて、A4のノートに1行程度の日記をつけるようになってた。それが思ったよりリハビリ効果もあるようで、父はたびたびコオに、ノートを買ってきてくれ、と頼むようになっていた。
「それから・・・パパ、莉子、もしかして精神的に病んでいない?鬱病とか、そういう、メンタル関係の病気になったこととかない?」
コオは、切り込んだ。
コオ的にはずいぶんマイルドな聞き方だったのだが。
