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これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day136-あらすじ
父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、莉子は当てにならない、と見切りをつけ、病院のケースワーカーと、コオは話をし、自分を連絡先の一つに入れてもらった。再び倒れた父、病院への面会、動かない莉子に変わって陰から進めた様々な手続き、そして、全くコオによりそうことはない夫遼吾。父は莉子のことしか話さない。
孤独感に苦しむコオは、そばに遼吾がいても、だれよりも遠い、という事実に耐えられず、別居したいという
健弥も、学校に近い方が、いいという。コオは壊れていった。
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それでも、コオは心に蓋をすることを学んでいた。
だから仕事を休むことはほぼなかった。悪夢の中で泣きながら目が覚めても、台所に立った瞬間から、体は自動的に健弥のお弁当を作り、朝食を準備し、夕ごはんの仕込みをする。それは、遠くから、機械が動いているのを眺めるような自分の体がどこか別になるような、奇妙な感覚だった。
ただ、職場と家の往復をする車の中でだけ、嗚咽した。「助けて」「どうして」「助けて」・・・このまま、自分が死ねばいい、と毎日思った。
しかし、職場が近づくと、コオは再び心に蓋をする。
そして、また幽体離脱してしまったような感覚は職場に行っても続いた。PCに向かって作業をしていると涙が勝手にボロボロと出てくることが度々あるようになった。泣きたい気持ちを遠くから眺めているような、やはり、奇妙な感覚だった。
「嶋崎さん、どうしたんですか?」
「アレルギーだと思う。気にしないで。目薬さしたから。それより、これから2週間の予定なんだけど…」
おかしい、とは少しは思っていたと思う。実際、コオ自身も、泣きたいのを我慢しているのに泣いている、という感覚は少しもなかったのだ。心に蓋をしたコオは、全く普通の調子で話すことができたから、最初は驚いた職場の同僚や、パートの人達も、コオが涙を流していても
「またアレルギーですか?」
と普通に話しかけてくる、そんな状態だった。コオの、体と蓋をされた心は悲しくて辛い、と悲鳴を上げていたのかもしれない。コオは毎日のようにデスクでディスプレイに向かって涙を流しながら仕事をした。
今思えば、解離症の一種だったのかもしれない。父の前で笑顔で話し、家では気が狂いそうなほどの孤独感に耐え、仕事は、プライペートを切り離さなければならない。
一度だけ、涙と心が一致して泣いた時があった。
それは、遼吾からの、メールを見たときだった
『どっちのアパートがいい?』
そこには2つの、不動産屋のホームページにある情報リンクで、コオの職場に近いアパートのものだった。
遼吾は、私が出ていくのを止めることはないのだ。私が出ていくといえば、出ていく手伝いをする。
私は、必要ないのだ。
コオは、そのときだけ少しの間駐車場の車に逃げ込み、泣いた。