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あらすじ BattleDay0-Day86

 

*******Day86以降・前回までの話********* 
コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取あうようになる。

父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたこと、莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、立石が困っていることを知る。莉子をキーパーソンとする、という大前提を先に明確にしたうえで、コオが影で動く立石との連携は機能し始める。

 ゴールデンウイークにコオ達家族は1泊の短い家族旅行を楽しんだのだが、自分たち家族だけが楽しんだことにコオは罪悪感を覚える。

旅行から帰った次の日、莉子にケアプログラムを提案するために出かけるが、莉子は外で父と話したい、といったコオを拒否、家から追い出そうとする。コオは、何とか父と言葉を交わしはしたが、母の言葉でコオを責め立てる莉子と、それを止めない父に疲弊して実家を後にした。遼吾に状況を話し、助けを求めたが、コオを突き放す遼吾の言葉に、絶望する。

過去の瘴気に毒され、感情に溺れ切ったコオを理解できず、コオを放置することを選んだ遼吾。

コオは絶望を抱えたままそれでも、日常を送ろうとする。

そのなかで、コオは莉子が決められなかった主治医候補をリストアップし、莉子の友人にコンタクトを取ろうと試みる

《 間違っていたらごめんなさい、深谷莉子の御友人の太田笛子さんではないでしょうか。私は莉子の姉です。伺いたいことがあってこのメッセージを送らせていただきました。もしまちがえなければご返信いただけますでしょうか?》

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 コオは、莉子が太田笛子が実家に来た時に会ったことがあった。もうずいぶん昔だ。多分、遼太が生まれる前だったと思う。何故その時コオが実家にいたのかはもう覚えていない。ただコオはふっくらとした背の小さなよく笑う太田笛子にはとても好印象を持っていた。コオや莉子の卒業した高校にはよくいるタイプだ、とあの時思った。頭がよくて、前向きな彼女は当時独立して仕事を始めるための準備をしていて、確か臨時職員としてある会社で働いていた。独立するためにはお金が必要。そのためには関係ない職場でも、まずは働くこと。
 その、計画的なやり方にもコオは好感を持っていた。
 いや、正直に言うなら、当時コオは、私がが笛子さんなら莉子の働き方は甘ったれていてふざけるな、っていう感じなのに、笛子さんはちがうのだな、と思ったのだ。
 当時、莉子は午後の非常に限られた時間しか、ピアノを教えていなかった。莉子曰く、『午前中は練習にあてたいから』で、しかも、少し優秀な子がピアノを教えてくれ、といって莉子の個人レッスンにを希望すると『私じゃ、才能がもったいない』といって、違う講師に回したりしていた。どれも理由は、それだけ聞くともっともで、美しく、良心的に聞こえる。しかし、それはあくまで「一人で食える分稼いでいる」ならなばだ、とコオはひそかに思っていた。実家にいて親にぶら下がり、親に買ってもらった車にのってレッスンに向かう。一人で食っていかなければならない人ならば、そんなきれいごと言っていられないはずだ。コオはそう思いながらも、決して口に出さなかった。それは、親の仕事であり、コオのやり方ではない、と思っていた。

 しかし、父と母は「独り立ちできるようになれ」と、いうだけで、莉子にグランドピアノを買い与え、車を買い与え、実家に住まわせ続けたのだ。

 

 そんな甘えた働き方をしていた莉子だったが、太田笛子は仲良くしていたようだった。

 だから、コオは聞きたかった。莉子に、コオが知らない間に何かが起こったのか。仕事を辞めた理由も、今、何を聞いても信じられないくらい忙しい、というだけの理由も、太田笛子なら知っているだろう、そう思ったのだ。

 

 しかし、笛子からの返信はなかった。メールも、電話番号からのショートメッセージも。

 あまつさえ、一度届いたショートメッセージは、もう一度、コオが≪返信先はxxx-xxxxで直接お電話でも結構です》と、追加を送ると、ブロックがかかったのか、届かなかった。

 

 嫌な予感がした。

 

 コオはそれ以上メールを送ることはやめた。

 しかし、それは、間違っていた。

 コオは、なんとしても連絡を取ろうとするべきだった。それが分かるのは1年も先の事だった。