************これまでの話********************************

父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。1ヶ月が過ぎようかというとき、莉子は姉・コオの夫、遼吾に繰り返し電話をし、会って父の今後を話したい、という。

 コオは全くなじみのなかった日本の”介護システム”について、友人・響子にレクチャーをしてもらい、

 自宅に父が戻ってから介護サービスを受けるために必要な事項、

 介護認定・ケアマネージャーを決める件に手を付ける。

 父に一応聞いたうえで、コオは母の時と同じケアマネージャにしたいと考える。 

 

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 その日も寒い日だった。

 もう3月だけれど、最近の冬は温暖化のせいで温かったが、今年は寒い。いや、平均的なのかもしれない。

 1月にはがっつり積もるほどの雪が降ったし、雪がなくても、こんな寒さの中、コオは外に立ちっぱなしなど嫌でたまらなかったが、嫌々、本当に嫌々、莉子が指定した公園に、遼吾と車で出かけた。

 実家から、自転車でコオなら5分、莉子なら10分弱か。コオが小さいころはなかった公園だ。ボールをけるくらいのスペースはあって、子供たちがよくサッカーをしている。コオがよく行っていた歯医者のそばの公園は、寒いせいか数人の子供がいるだけだった。

 コオはぐるりと見渡して、やはり全然わからない、と思った。何故、ファミレスの個室で話すのはダメで、公園はいいのだ?

 莉子はブーツにショートコートを着て現れた。いつも思うのだがコオより背が高く、一時期服飾メーカーに勤めていたせいなのか、服を選ぶのも、いいものを選ぶ。直しの必要がない、うらやましい体型だ。化粧もふくめて、きちんとしている、という印象だ。対するコオはいつもの通りすっぴん。化粧は面倒だし、お金がかかるから、めったにしない。それもあまり気にしない。服のセンスが全くないのが分かっているのと、何を着ても見栄えがしないと思ってるから、服へのこだわりもほとんどない。足が痛くなるのが嫌で、靴は常にスニーカーだ。

 いつも莉子を見るたびに、コオは(姉妹とはいえ、私とは違う世界の人だよなぁ)と思っていた。もっとはっきり言えば、他人だったら、学校で同じクラスにいても、コオと友達にはならなさそうなタイプ。それが、もっともコオと莉子の間をよく表していると思う。

 

 「遼吾さん、こんにちはー」

 

 莉子の甲高い声を聴くだけでコオは頭痛がしてきそうだった。

 ここまで妥協して出てきたんだから、遼吾、仕切ってよね。

 

 「こんにちは。寒いから、早く済ませましょう。それで?病院からなんか受け取ってきたんだよね?」

 

 遼吾がコオに目を向けて言った。