************これまでの話********************************

父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。入院費の請求を病院側から知らされたのをきっかけに莉子は姉・コオの代わりに遼吾に繰り返し電話をし、父の今後を話したい、という。

 莉子と合うまでの間に、コオは全く知らない”介護システム”について、高校時代の友人・響子に教えてもらうことを思いつき、メールを送る。

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 「久しぶり!ごめん、呼び出して」

 「いいよ、いいよ。新駅のそばにさ、いい店があるからそこに行こう!」

 邑木響子は、15時には、施設に入っている父のところに行くという。彼女の母は実家にいて、彼女が通い介護をしている。大変だね、お兄さんいるのに、というと、兄は、あてにならないけど、そのかわり私のやり方に文句はつけないから、と響子は笑った。

 子供がいなくて共働きの彼女は、夫婦仲ががよくて、洒落た美味しい店を発見して二人で食べ歩くのが好きだ。遼吾など、「旨い店、響子さんに聞いといて。彼女がうまいと言うなら間違いないから。」というくらいだ。

 二人は小さいけれど、ランチタイムでかなり混んでいるカジュアルフレンチの店に入った。

 

 「さてと。何からいく?お父さんのことだよね、介護関係ね。」

 

 響子は肩からかけたかばんから、どっさりとファイルを取り出した。さすが、響子。頼りになる。

 

 「うん、私、母のときも亡くなる直前まで実家と連絡してなかったから何も知らないんだ。病院でね、退院するならケアマネジャー決めないとって言われたんだけど何のこと?」

 「ああ、そりゃ、そばに年寄りがいなかったらわからないよね。」

 

 響子は、笑った。

 

 「介護認定は受けてる?」

 「・・・なに?それ。」

 

 「うん、介護保険、ってあるじゃない。あれって、ある年齢になったら自動的にみんな払ってるわけだけど、あれを、使って、介護サービスを利用すると、健康保険みたいに安く済むわけ。だけど、使うためには介護認定を受けなくちゃいけないの。つまり、この人は介護が必要です、って役所が判断して、はじめて介護保険を使うことができるようになる。自立、ってつまり一人で暮らせます、って判断されると介護保険は使えない。」

 

 「介護認定がじゃあ、最初だね。それはどうしたらいいの?」

 

 「申込みは介護保険の窓口。病院にいる場合はね、役所の調査員が本人の状態を確認に病院にいくわけ。で色々質問するの。日付は病院のケースワーカーと役所でしてくれると思うけど、家族も立ち会うね。それでね、どれくらい介護が必要なレベルかっていうのを1から5で決める。」

「成績表みたい。」

 

「で、そのレベルによって、どこまでのサービスを受けられるかが決まるの。でね、要介護がつくと、病院から出たとき、ケアマネージャーがつくの。」

「そこで出てくるのがケアマネージャー、なんだ。マンツーマンでつくの!?」

「まさか。一人のケアマネが何人かを担当してるね、通常。で、在宅でどんな介護サービスを受けられるか、ある程度管理してくれるわけ。ケアプログラムも作ってくれるよ、ある程度こっちの希望も聞いてくれる。」

 

 初めて聞くことばかりだった。響子の持参したぶ厚いファイルは、実際に彼女の母のケアマネージャが作成しケアプログラムで、どんなことをどれくらいの価格でできるのか、響子は丁寧に説明してくれた。