************これまでの話********************************
父が脳出血で救急搬送された。
父と同居している妹の莉子と、姉コオとのやりとりは噛み合わず、険悪さを日々増すだけであった。一方2日後に父は意識を取り戻し、順調に回復。ERから別病院に転院することになった。転院前日に莉子は、姉ではなくコオの夫・遼吾に父の転院先への送迎を依頼する。 遼吾は、莉子が転院に必要なものをまったく用意していなかった事をコオに伝え、コオは、激しい怒りをおぼえる。
父が話すことが回復につながると信じるコオは転院先の病院に仕事帰りに毎日のように立ち寄り、日々、父との短いが穏やかな時間を送る。
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父は、過去のことは本当に詳細に覚えていたけれど、最近のことはかなり記憶があやふやなようだった。また、やはり、脳の言語野で脳出血があったせいなのだろう、いくつかの特定の文字を書くことができなかった。話すのは問題がなくても、ひらがなの特定の文字が出てこない、とはとても奇妙で、不思議な現象だ、とコオは思った。
「出血があったことで、その一部に炎症が起きてるんだと思う。まずはそれを回復させないとね。私が会社で調べてる細胞はね、出血が脳であると、わーってそこによっていくんだよ。それ以上異常をひろげないために。」
コオが話をしていると、検温に来た看護婦さんが
「まぁ、小坂さんの娘さん、すごい!お医者さんなんですか!?」
「いやぁ、娘はね、脳の専門家!」
ちがうから、とコオは笑いながら、父が軽口をたたけるようになったのが嬉しかった。
ともかく、確実に話すほどに父は目に見えて回復していった。
