*************これまでの話********************************

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送されたと妹の莉子から連絡があった。
父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに妹の莉子にFAXで送ったToDoリストからはじまったコオと莉子のやりとりは険悪さを日々増すだけであった。

 2日後、父は意識を取り戻し、順調に回復しERから別病院に転院することになった。

転院前日に、莉子はコオの代わりにコオの夫・遼吾に送迎を依頼する。

転院の朝、コオは遼吾と二人で父に面会し、遼吾のことも認識したことを確認する。

 

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 数時間後。

 会議が終わったコオは、再び腹を立てていた。しかもかなり。

 

 会議の途中の遼吾から電話が入った。遼吾はめったに音声電話をかけてこないから、それだけでも、緊急だということがわかったので、コオは会議を一時抜けた。

 転院先で、保険証を求められたが預かっていないから、父の誕生日他を教えてほしい、という電話だった。しかも、J医大医療センターで、父の入院費を遼吾が精算したという。転院先の入院手続きをどうするのかも、まったく聞いていなかったので、保留で、とりあえず第2連絡先として自分の名前を書いたという。

 「莉子さん、ほんとに何もやってなかったんだよ。転院先への連絡も何もね。」

と遼吾は、淡々と言った。

 

 信じられない。

 100歩譲って、私に頼んだのなら、姉なのだから入院費は払ってくれ、ということならまだわかる。しかし、頼んだ相手は、彼女にとっては義兄だ。私が、腹を立てていたから、私に頼めないから遼吾に頼んだのだ。保険証も用意してない、支払いも遼吾にまかせた?義兄なんて、他人ではないか。他人に自分の身内を任せるのみならず、なんだ、このやり方は。

 コオは莉子に激怒していたが、同時に遼吾に腹を立てていた。

 

 何故、これは間違ってる、と言わないの?何故莉子に言われるがままに動いてるの?俺は関係ないって、何故莉子に言わないの?何故、黙って支払うの?

 

 今考えれば、省エネ・遼吾は言われたことをただやっただけ、だったのだろう。そして、莉子とのやり取りのほうが面倒くさくて、よりエネルギーを消費するからやらなかっただけなのだろう。

 それでも、その時のコオは、遼吾がまるで莉子に味方をしているように思えて、遼吾にひたすら腹を立てていたのだった。