*************これまでの話********************************
父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送されたと妹の莉子から連絡があった。
父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに妹の莉子にFAXで送ったToDoリストからはじまったコオと莉子のやりとりは険悪さを日々増すだけであった。
しかし、2日後父は意識を取り戻し、順調に回復しERから別病院に転院することになった。
転院前日に、送迎するように莉子に言われてコオは腹を立て、強い言葉のFAXを送ってしまう。莉子はコオの代わりにコオの夫・遼吾に送迎を依頼する。更に腹を立てるコオに遼吾は、「大事なことは、お義父さんの回復」と言い聞かせる。しかしコオは、もうひとつ、父が遼吾を認識できないかも知れない、という不安があることを伝えた。
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「じゃあ、どうする?」
遼吾の言葉にコオは少し考え込んだ。
莉子には腹が立つ。でも、遼吾の言うことは正しい。父は一刻も早く、リハビリのできる病院に転院したほうがいい。そして、父の記憶に不安があるのも本当だ。自分が遅刻できる時間は限られている・・・
「・・・こうしようか。私、どうしても9時半には行かないといけない。だから転院先までいくのはちょっと難しい。まずはあなたと車で病院に行って、父があなたのこと覚えてるかどうか確かめよう。それで、父があなたのことわかってるようだったら、悪いけど、そのあと、転院先の病院までつれて行くのをお願いできる?私はそのまま仕事に行く。どうしても9時半、最悪でも10時には着かないといけないの。」
「了解。わかった。しかたないよね」
「でも、もし父があなたのことわからないようだったら…その時は仕方ないよ、休みは取る。あなたはそのまま車で家まで帰って、仕事に行って。」
そう、休むのは不可能なわけではない。不可能ではないが、これから父のことでこういうことは頻繁に起こるだろう。だからこそ、今は都合が付く限り行っておくべきだとコオは考えていた。それは、もしかしたら現役時代、本当に具合が悪いとき以外は休まず遠くの職場まで通い続けていた父の姿を見ていたからかも知れなかった。
「…わかった。いいよ。じゃあ、朝一だな。莉子さんに連絡しとく」
遼吾は言った。コオは、一度は収まった血がまたふつふつとたぎるのを抑えられず、悔しそうにつぶやいた。
「遼吾は…あなたは、莉子の旦那じゃないのに。」