*************これまでの話********************************
父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送されたと妹の莉子から連絡があった。
コオは今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに妹の莉子にFAXで送ったToDoリストからはじまったコオと莉子のやりとりはまったく話がまったく噛み合わず、コオは自己否定していた過去のフラッシュバックに悩まされる。 父は意識を取り戻し、順調に回復しERから別病院に転院することになった。
転院前日に、送迎するように莉子に言われてコオは腹を立て、強い言葉のFAXを送ってしまった。
***************************************************************
それが、まずかった。
莉子は、怒り狂って電話を折り返してきた。もう、今は一体彼女が何を言ったのか、コオは全く思い出せない。おそらく、コオはずっと受話器を耳から離したまま、キンキンという甲高い莉子の声が流れてくるのを、そのままにしておいたのだろう。
実際、その時はコオ自身もかなり怒っていたし、莉子が謝らないかぎり、もう応対する気がなかったのも確かだ。
何故、頼むならもっと早くに言わない?何故、自分が行かないなら、『ごめん』の一言が言えない? ごめん、突然転院するように言われて、・・・申し訳ないけど休むことできない?と一言言えば、無理をしてでも休みをとったのに。そもそも、莉子の仕事(?)のスケジュールがどうなっているのか聞いた時に、例によって莉子は明確な答えをしなかったし、だからコオも、いつどう自分が動かなければならないのかわからなかった。なのに、今回コオが行くのが、休むのが当然のような物言いに、コオも怒っていたのだ。
あのときコオが
『行こうとは思ってたよ?でも、うちが受験直前の子供がいることも考えてほしいし、私も旦那もフルタイムで働いてるから、直前に言われても、そんなに簡単に休みは取れないの。でも、莉子が行けないなら、休めるように頑張ってみるけど?』
と最初に言っていたらどうだったのだろう。・・・おそらく、結果は、全く変わらなかったろう。
それでも、強い言葉のFAXを送ってしまったことを、今はコオは悔やんでいる。
ただ、それは決して莉子のためではない。今のコオ自身のために。
理不尽なまでに、コオを悩ます奇妙な罪悪感は、あのとき始まったのだから。
