*これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは父と同居している妹・莉子の代わりに入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父が意識を取り戻しコオは面会をして、思ったより状態がいいことにホッとする。

 父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに莉子に送ったリストへの返信は数日後直接電話でかかってきた。話はまったく噛み合わず、コオと莉子は険悪な会話を繰り返していた。コオは徐々過去の自己否定していた頃のフラッシュバックに悩まされる。

 

***************************************************************

 

 父は、順調に回復していた。ERは、あくまで救急対応なのでコオはいづれは普通病棟に移してもらえるだろうと思っていた。しかし、お父さんははJ医大医療センターの外の、病院に移ることになるだろでしょう、と病院スタッフに言われ、実際入院するのは父なのに、コオは少なからずがっかりした。ここなら安心、と思っていたのに、また新しいところか。まぁ、リハビリをメインにやってもらえるところならば、それはそれでいいのだが。

 

 「パパは思ったより病状がいいから、この大病院じゃなくて、別の病院に移ることになるみたいよ。」

 

 コオは、状態がいい、ということを強調したくて、そんな言い方をした。父は心細そうな顔になった。母が入院・手術したのもこの病院だったし、馴染みがある方がやはりいいのか、単に体力に不安があるのか。

 

「そうか、でも、どうやって移ればいいんだろう…。」

「いつなのかわかんないけど、莉子がちゃんとやるよ。時間ちゃんと知らせてくれたら、私も休みとるし。そしたら車で運んであげられるよ。」

 

コオは本当にそう思っていた。頼まれれば、しかたない。莉子の態度は全く気に食わないが莉子は気に食わなくても、父にはやれるだけのことを、やることになるだろう。

 そう、このときコオは多分、結果的には、いやもしかしたら、決定的に間違ったことをしてしまったのだ。