*これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは父と同居している妹・莉子の代わりに入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父が意識を取り戻しコオは面会をして、思ったより状態がいいことにホッとする。

 父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに莉子に送ったリストへの返信は数日後直接電話でかかってきた。話はまったく噛み合わず、コオと莉子は険悪な会話を繰り返していた。

 

*******************************************************

 

 最初に、コオは莉子に、ダイレクトに「あんたは大して収入ないんだから、お父さんが死んで、いきなり口座凍結されたら困るでしょう?」とは言えなかった。

どう言うのが正解だったのだろう。だからFAXにした。コオとしては精一杯気を使ったいいかたにしたかったから。それを正しいか、人にチェックしてもらえるから。

 しかし、コオなりに気を使ったFAXを莉子は《あんな事務的なFAX》と言った。では、私はどうすればよかったんだろう?

 

 人間関係は・・・苦手だ。確かに、子供の頃から言葉が足りなかったり、きつくて、自分で思っている以上に、思いやりにかけた言葉を使っていたのだろう。そう、おそらくコオの長男の遼太と同じく空気の読めない、軽度発達障害を持って生まれてきているのだ、と自分では思っている。

 それでも、最近はずっと改善したはずなのに。

 

 だから・・・実家は嫌いだ。

 あの家族と話すと、いきなり子供の頃の、重苦しい思いが戻ってくる。自分は、人とうまくやっていけない、ダメな人間だと、一生人に愛されることなど無いと思っていたあの頃に、いきなり逆戻りしてしまう。今まで自分が積み重ねていたものが全て無意味だったかのような気がしてくる。

 

 (こういうのが嫌だから、実家は避けてたのに。)

 

 コオは憂鬱になってため息を付いた。

 それでも、コオはその時は、もともとあまり仲の良くない悪い姉妹の、きょうだい喧嘩のように思っていたのだった。

 それがどれだけ甘かったか、後で思い知ることになるとも知らず。