**これまでの話**
父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを終え病院で、意識のない父に話かけながら短い面会時間を終えた.
長い間断絶していた実家だったが、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考えるコオ。
自分の家族のもとに帰って、ひと時、日常に戻った。
コオは、妹・莉子のメールアドレスを知らないので、連絡のためFAXを送ることにした
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ともかく、コオは莉子のメールアドレスも知らないから、確実に連絡するのならFAXが一番だとその時は思っていた。
『考えたくはないですが、父の様態を考えると、どうしてもやって置かなければならないことがあります。以下の点をチェックしてもらえますか?
1. 父の銀行口座。:通帳・カード・はんこのチェック。ありますか?
2. お母さんが亡くなったときに入ったM川セレモニーの互助会の会費について。今も払い続けてるのか、あの時限りだったのか、チェック
3. 医療保険、入っているか知っていますか?入っていれば、連絡をしなければいけません…。』
更にいくつかの項目を足して、読み直した。
(最初の部分で、心配してるんだ、ってわかってくれるといいけど)
コオは思った。
最初に、<これは考えたくはないけど、必要なことなのだ>、と伝えたつもりだ。
莉子は感情の生き物だ。事務的すぎる、と狂ったようにならないのを祈るばかりだ。誰だって、葬式の話なんて考えたいわけじゃない、それでも考えなければならないのだ。いつかは来ることで、今は、もしかしたらそれが迫っているのかも知れないのだから。葬式は、母のときと同じにやるのか、もし互助会という会費のようなものを、母のときに頼んだ葬儀屋に払い続けているのなら多分、そうなるだろう。そうでなければ、新たにどこでどうやるのかを考えなければならない。
コオは遼太の高校のPTAで知り合った友人を思い浮かべた。彼女は葬儀所で働いている。色々教えてもらえるだろう。後で連絡を取らなければ。今のうちにいくつか、他の資料もあたってみたほうがいい。こういうことは、ドライにできるうちに片付けてしまわなければならない。
ずっと昔、父の買ってくれたいちご大福の味が涙と一緒に込みあ上げてくる様になる前に。
コオは、FAXを送信した。
すべての始まりの日は、こうして終わった。
