**これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子とともに一度は病院に向かったが、父は意識がなく、入院手続きなどの説明だけ受けた二人は病院からそれぞれの自宅に帰宅した。莉子が自分がやるといった入院手続きを、かわりにやってくれという電話をうけて、コオは病院で、意識のない父に会う。

父に話かけながら、コオは10年ほど前を思い返し、短い面会時間を終えた

 

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 病院から戻って、遅い昼ご飯を食べると、すっかり疲れ切ったコオは眠ってしまった。

 莉子のかすかな違和感が、ずっと流れていた。自分がやるといった入院手続きを、急にコオにやってくれといったこと。しかもその理由がレッスンだったこと。お願いと電話を切ってから2時間も待たされたこと。

 (父が倒れた時間は私に電話かけてくるより多分結構前だろうから、うっかり寝ちゃったりしたのかな。)

 眠りにおちながらコオは切れ切れに思った。

 莉子は、人を待たせても・・・友達とうまくやっていける。でもコオはちがう・・・コオは小中学の9年間はいつもトップクラスの成績だったけれど、それは、あまり価値がない…だって莉子ちゃんは・・・お友達がいっぱいいて・・・お姉ちゃんは友達とうまくやれない・・・だから、莉子は、私を待たせても、遅くなっても、いいんだよね・・・?お母さん・・・お姉ちゃんだから・・・我慢しなさい・・・

 

 夕方まで眠っていた。

 

 次男の健弥は、学校から帰るとそのまま塾にでかけ、コオは遼太を車で迎えにいった。

 今日は何を夕飯にしようか。寒いし、ひどく長い1日だった。手抜きで、鍋にしてしまおうか。子どもたちは、何がいい?と聞いても、めったに答えてくれない。それは、満足しているからか、諦めているのかどちらだろう。

 コオは、デパートなどに服を見に行くのはむしろ苦手で、できることなら、全部ネットで済ませてしまいたい方だが、息子たちと食料品の買い物に行くはとても好きだ。もう今はそんなことはしてくれなくなったけれど、買い物かごの乗ったカートを押していくと、幼かった健弥など、自分の食べたいものをポイポイかごに投げ込もうとする。それを入れられないようにカートを遠ざけたり、素早く通り過ぎたりする。笑顔が自然にこぼれてしまう、そんなひとときがコオはとても好きだった。


「遼太、夕飯の買い物。荷物持ち、して。」

「ええー??、制服だぜ俺。」

「いいしょや、親が一緒だもの。」


文句を言いながらも、遼太は、しっかり荷物持ちをしてくれる。今ではコオの身長をを20センチ近く追い越してしまった遼太は、もしかしたらもう一緒に暮らせるのはそう長くないのだ、とコオはすこし寂しく、でも誇らしく思った。