**これまでの話**

 

コオは、父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された、と妹・莉子から連絡を受けた。莉子とともに一度は病院に向かったが、父は意識がなく、入院手続きなどの説明だけ受けた二人は病院から帰宅した。コオは息子を学校に送ったのち、休んでいたコオに、莉子から入院手続きをやってくれという電話が入った。

 2時間後、莉子がやってきた

 

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 「お姉ちゃん、これ。じゃぁ、お願い」


コオは莉子から玄関先で父の入院グッズを受け取った。彼女が下げたもう一つのトートバッグの中に、楽譜が見えた。レッスンはやはり音楽のレッスンらしい。


「足りないものはどれくらいあるの。」
「リストに印つけてある。買いに行く暇、私無いから。買っといてくれない?」
「…これ、全部病院の売店にあるもんばっかりじゃないの。」
「そうなの?」


 結局、買う暇どころか、入院手続きする時間さえないってことじゃないの。最悪病院の売店で全部買えるのに、とコオはイラッとした。

 もちろんコオは売店では買わない。病院に行く途中に、いくらでも安く買える店があるのだ。特別なものは、介護おむつくらいだろうか。あとは、歯ブラシ、とかコップ、とか、日用品ばかりだ。

 いずれにしても、莉子は今までの時間一体何をしてたのだ?


「それで、買ったもののレシート後でちょうだい。払うから。」
「…」


(いらないよ。お母さんの残したお金で払うから)コオは思ったが、口には出さなかった。