「…なんか起こらない限りは迎えに行ってあげるから、電話して。」 

 「うん。ありがとう」 

 障害のせいもあるのか、少々幼く、マザコン気味ではあるけれどやはり可愛い…でも、同時に息子を甘やかしてはならない、とあらためて自分に言い聞かせながら、コオは車を回転させた。

 大学に入学したら、少なくとも3年生になれば必ず一人暮らしをさせる。できることなら、1年生のうちから。そのためには狙った地方の国立大学に合格してくれることが一番なのだが… 

 今のところは五分五分だ。

 コオは、一人暮らしをさせることにこだわり、夫の遼吾も、大枠においては賛成だった。

  職場に休みの連絡を入れたあと、コオは洋服を着たまま、横になった。何があるかわからない。ともかく少しでも寝不足を解消しておかなければ。ここしばらく仕事もきつかったし、理由はともかく体を休められるのはありがたい。

 大丈夫。仕事に比べたらいつかは起こること、予測可能なこと、手順がわかってること、私はハンドルできる。まずは、体を休め、これからのことに備える。すべてはそれからだ。

  コオはとろとろとまどろんだ。

  カーテンを開けていると、南側に面した部屋には、冬場の低い太陽の暖かな日差しが差し込んでくる。

  (「お姉ちゃん、莉子ちゃんをお願いね」) 頭の中に響く、かすかな、母の声。

 コオは目を瞑る。

 

 私は ハンドルできる。

 

 死んだ母、そして父や妹に対する感情には蓋をする。 

 

私には、守るべき子供達、支えてくれる家族がいる。

 

だから…乗り切っていける。 

 

これがある限り、

 

私は。

 

 コオは眠った。