莉子をおくったあと自宅に戻ると、夫の遼吾は、着替えてはいたもののまた、布団に横になっていた。相変わらず朝はぎりぎりまで寝ている息子二人は、また寝息を立てている。 

 

「どうだった」

 「うん、意識戻らない。戻るかどうかもわからない。言語野に脳出血があったらしい。運ばれたのは早かったみたいだけど。今日は、私仕事休み取るから」

 「俺も休もうか」

 「いい。今は病院に任せてるし、できることない。状況が、変わってからが修羅場になる。そうなったら休んでもらわなくちゃいけないかもしれないから、それまではちゃんと仕事にいって」 「うん、わかった」

 

 遼吾は、それ以上聞かず、時計をみると息子達を起こはじめた。 父が、亡くなったら、とはコオは言えなかった。たとえ父の意識が戻ったとしても、おそらく介護が必要な体になっているであろうことをコオはこの時点で予想していた。   

 起きてきた二人の息子に簡単に状況を説明した。1キロ程度しかはなれていない実家だが、あまり行き来をしていないのもあってか、簡単に状況を説明しても、息子達はさほどショックを受けたようには見えず、コオはほっとした。

 

 「....そういうわけ。受験で忙しいのはわかってるけど、病院までは車でつれていくから、少しの間だけ、面会時間におじいちゃんに会ってくれるとうれしい。学校のこと、話してあげて。かわいい孫の声はわかるはずだから。」(私の声は届かなくてもね。)

 

 コオの言葉に息子達はもそもそとうなずいた。


「...なー、母さん、今日休むんだろ?学校まで車で送ってくんねぇ?」


長男の遼太が甘えた。普段は家を出るのはコオが一番最初だ。送ってあげられることはない。入院手続きは、莉子がやると言ってたし、受験直前だ。サービスしてやってもいいかもしれない。