莉子を車で父の自宅まで送るのは10分ほどもかからなかった。
莉子は入院手続きは自分でやると言ってたが、それでもコオは仕事はその日は休んで家にいることを決めていた。そしてもう一つ。今までずっと実家を避けていた、ことさらに母を。母が4か月前に亡くなってからも、それは変わらなかった。しかし、今回は感情に蓋をする。妹と父に対して家族として向き合う。コオはこの時点でそう決めていた。
父が亡くなる。
それはそう遠くないのはわかっていたが、急だった。なんといっても母がなくなってまだわずか4ヶ月だ。子供たちの受験に、影響がないようにしなければ。いや、息子達はナイーブな質ではないから、大丈夫だ。葬式のことも考えなければならない。母の時に加入した葬式のための互助会の会費はどうなっているんだろう?いや、それよりも問題は、父の口座だ。亡くなると、銀行口座は凍結されてしまうだろう。
コオは身震いした。
莉子は確かアルバイトしかしてないはずだ。父の口座が凍結されてしまったら、家賃は、父の自宅だからロハだったろうが、税金、光熱費等を考えると、即、おまんまの食い上げになるはずだ。家?家を売る?売ったとして手に入る金額は...それで何年暮らすつもりなのだ?
(「お姉ちゃん、莉子ちゃんをお願いね」)
母の声が、響いた。