それは、ある年の1月の事だった。

1週間前、この地方では、珍しいくらいの大雪が降ったが、この日は、積もった雪はもうとほとんど解けてしまっていて、日陰にわずかに残っているくらいだった。

 夜中の3時頃だった。電話のベルが鳴った。コオと遼吾の夫婦が寝ている部屋の電話は昭和の黒電話で、ともかく殺人的にけたたましい音がする。

「.・・・嶋崎です・・・?」

「お姉ちゃん、パパが倒れた。救急車で運ばれたの。J大学の医療センター。車で、私を病院まで連れて行ってくれない?」



この一本の電話がすべての始まりだった。