きっかけは2012年6月後半の通勤時のときだ。右脇の内側にこれまでに感じたことのない違和感を覚えた。「体の内側で右肺がアバラから引きはがされた」と感じた。もちろん錯覚だ。両者はくっついていないからはがれようがない。しかし、それからずっと体内の右アバラに握り拳大の鉄の塊のような存在があった。カイロを張るには暑すぎる。何もしないで、この違和感とつきあうしかなかった。
 しかし、違和感だけでは済まなかった。数日後から、普段より1度高い微熱が続き、空咳が少し出始めた。私は恐がりの小心者だ。自分の体に何が起きたのか。どうしても悪いことを考えてしまう。念のために、木曜日に1日会社を休んだ。体調は確かに悪い。しかし、癌の定期検診でお世話になっている病院に転がり込むほどでもない。私は家で体を休めた。この「会社を休んだ日に、地元の病院にすら行かなかった判断」を後でママに責められた。咳が少し出る日が続いたのだ。
 1週間以上、軽い咳が続いた。回復する気配はない。でも、悪化する気配もない。その間の朝夕、マスクをして通勤した。暑い中マスクをすると顔が蒸れる。汗ばんだ不気味なオヤジだったと思う。幸い職場では昼間は咳が出なかったのでマスクを外せた。しかし、雑踏に出るとまた咳が出始め、マスクのお世話になった。
 途中、1晩だけだが、強烈な下痢に見舞われたのも堪えた。帰宅後、夕食ができるまでの間、ソファーに横になり、深い眠りに落ち、凄いいびきをかき、目が覚めた後子供たちに笑われた日もあった。
 結局、休んでから9日後の金曜。私は「明日土曜日に病院に行く」と決めた。しかし、その土曜の朝、ぴたりと咳は止まった。この程度で済んで良かった。