自分が健康なころには、自分の財産の分類などしなかった。たまたま、それまでの人生の経緯で口座やら保険やらがゴッタ煮状態で一つの鍋に盛られている状態だった。
 癌治療を調べていくと、有効か無効かわからないものまで含めて際限なくある。元手があり、効果を疑わなければ、お金はいくらでもかけられる。私の場合、自分の命がかかっているとはいえ、全財産を癌治療に投入はできない。しかしコトが起こると、気の小さい私には冷静な判断はできない。事前にはっきり境界線を引いておかないと、際限無くにお金を吐き出してしまうことになりかねない。
 私は自分が肺癌になってから、お金を三つのグループで考えるようになった。一つは、普段使いの口座。もう一つは、肺癌治療の後で生命保険会社からいただいたお金をそのまま貯めたもの口座。三つ目は、その他ということでご勘弁いただきたい。
 私の中では、一つ目と二つ目の口座までが私の癌治療に使えるものだと思う。私は両口座を総称して「命の口座」と心の中で呼んでいる。できるだけ第一の口座でやりくりし、ダメなら、第二口座に手を出すという方針だ。上限があると無駄使いが減るのは確かとおもう。三つ目のものは残る家族の生活のための蓄えだ。
 さすがに、ママにもこの考え方は説明していない。ただ、ママが第三のものに手をつけようと安易に流れるときは私が止める。「年金はあてにならない。第三グループだけが老後の頼りだ」とママに暗示をかけている。
 これまで、第二口座に手を出したことは無かった。しかし、2011年冬。ついに第二グループの口座に手を出した。2011年は、海外旅行、犬関連の出費。収入以上にお金が飛んで行った。「命の口座」が大きく目減りしていると実感した。来年上の娘の塾代も上がる。しばらく、質素に暮らそうと思う。稼ぎも増やしたいが、出世には縁のないスチャラカ社員。それは無理と言うものだ。