読書日記 185 
『まぐれ』 01 生存バイアス ナシーム・ニコラス・タレブ ダイヤモンド社 \2,000
 Fooled by Randomness  望月衛 訳
 投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか 
 The Hidden Role of Chance in Life and in the Markets

up 2024 06 06 (Sun)
 
【はじめに】
 投資についてさまざまな本が出されている。「高配当銘柄50選」や「テクニカル分析」などの実践的な本もいいが、私のお気に入りの本は、 ややクラシック風の次の3冊。  
 ① 「投資で一番大切な20の教え」 ハワード・マークス」
 ② 「市場サイクルを極める」 ハワード・マークス
 ③ 「まぐれ」 ナシーム・ニコラス・タレブ
 今回は、「まぐれ」を読み直す。つねに、具体的な自分の事例をあてはめながら読む。急ぐことはない。
 
 
 その仕事で成功した人の例だけでなくその仕事を選んだ人の平均を考える。
 
37 事前の期待では、歯医者は間違いなく、ピンクのロールスロイスでお迎え付きのロック・ミュージシャンや、印象派の絵の値段を釣り上げて いる投資家や、自家用ジエット機のコレクションを持っている起業家よりも、かなりお金持ちだ。仕事について検討するなら、その仕事で成功した 人の例ではなく、その仕事を選んだ人の平均を考えなければならない、つまり、生存バイアスをとランダム性の抵抗力を考えなければならない。
 
 高給を謳歌する花形プロボクサーはほんの一握りで、大部分部分のボクサー志望者は売れなくて副業をしながら練習に励む。そのうち、 花形ボクサーも年を重ねると若手にその地位を渡してていく。いっぽう、歯科医はせいぜい若い時代には年収はせいぜい2千慢円だが、年齢を重ねると着実に年俸は 増える。ほんの一握りの花形ボクサー、だいぶ部分は目の出ない夢見るボクサー、辞めていくボクサー、彼らをすべて含めて平均すると、歯科医の 給料には及ばない。花形ボクサーの年俸と中堅歯科医の年棒を比較する愚は避けなければならない。
 
 おなじように、ジョージAは守衛をしながらせっせと宝くじを買う。ある日宝くじにあたって、歯科医のジョンBの隣に引っ越す。ジョウジAはむなしく宝くじを 買い続ける。毎年宝くじが当たらないジョージAのお金は、数十年後には、ジョンBにはるかに及ばなくなる。ランダム性と生存バイアスを考えないと いけない。
 
 観察された結果と観察されないけれどもありうる結果の両方を考慮すべきなんて、無茶だと思うかもしれない。ほとんど人にとって、確率と いえばこれから起きることの話で、もう結果がわかっている過去の話ではない。
 
 どんな分野でも、結果で成績を測ることはできない。
 
39 どんな分野(軍事、政治、製薬、投資など)でも、結果で成績を測ることはできない。 あり得た可能性 (つまり、歴史が違った道をたどっていた場合)のコストで測るべきだというよくある話から始める。ものごとがたどったかもしれない他の道を、違った可能性と呼ぶ。 明らかに、結果だけで判断の質を評価することはできない。でも、そんなことを口にするのは失敗した人だけだ。成功したひとは自分の判断のおかげ だという。そういう考え方― 「判断が間違っていたのではない」― を耳にするのは、落選した政治家がまだ、話を聞いてくれるマスコミの連中に 言い続けるときぐらいだ。
 
 ロシアン・ルーレット。
 
40 違った歴史という奇妙な考え方は次のように描くこともできる。変わり者で退屈している大様があなたに千万ドルをやるからロシアン・ルーレット をやって見せろと言ったとする。つまり、弾を6発まで込められる拳銃に一発だけこめ、こめかみに当てて引き金を引くのだ。でる結果それぞれを 一回分の歴史と捉えると、ありうる歴史は6通りあってそれぞれの可能性は同じだ。歴史6回中五回ではお金持ち になれる。残る一回ではトウケイデータになる。つまり恥ずかしい、でも間違いなく谷類をみない死に方で記事が出る。
 
 問題は、そうした歴史のうち実際に観察されるのは一つだけだということだ。そして1千万ドルを勝ち取ったひとは愚鈍なマスコミから感心 されたり賞賛されたりする。ウォール街で過ごした18年間に出会った重役たち(かれらの仕事は偶然に過ぎない結果を判定することぐらいだと思う) もほとんどそうだったけれど、みんな出元(でもと)、この本ではジェネレーッタ)を確かめずに、富があるという外見だけに目をつける。
 
ジェネレータ: その成果をどうやって得たかを確かめもせずに、外見だけで判断する
 
 違った歴史五回は観察できないけれど、考えの深い人ならそういうことをする連中がどんな人たち化は簡単に察しがつく。脳みそがほんの少し あって勇気があるということだろう。それに、もしロシアン・ルーレットで遊ぶバカがこのゲームをやり続ければ、そのうち悪い歴史の方に捉まる だろう。
 
ありうる世界
 
42 物理学では、量子力学を多世界の観点から解釈する立場がある。この考えでは、世界は木のように分岐点ごとに枝分かれしていく。いま 私たちが生きているのは、そうしてできるたくさんの世界の一つに過ぎない。可能性がたくさんあるときはいつも、世界はたくさんのありうる世界 に枝分かれし、それぞれの世界が可能性に対応する。つまり並行世界が増殖していく。並行世界の一つでは私はエッセイストでトレーダーだけど、 別の世界では塵になっている。
 
もっとたちの悪いルーレット
 
43 現実はロシアン・ルーレットよりもずっとたちが悪い。まず、運命の銃弾に当たってしまうことはもっと稀だ。回転式拳銃の弾倉が6個 ではなくて何百も何千もあるみたいなものだ。なん10回か引き金を引くと、弾丸が一個入っているのをすっかり忘れ、感覚が麻痺して安全だという 錯覚に陥ってしまう。この本ではそれを黒い白鳥問題と呼んでいる。ギャンブラーや投資家が、他の人に 不運が降りかかったからといって、自分もそういう目に合うとは決めかかってしまっている。
 
44 現実の拳銃は弾倉が見えない。ジェネレーター(出元:でもと)が肉眼で観察できることはめったにない。わたしたちには、結果として 得られた富は見えるけれども、富が得られる過程は決して見えない
 
 
◇◇◇ 雑談 
 
 われわれは大きい・小さいの差はあっても、日々さまざまな意思決定をしている。
 そして選んだ結果だけでなく、選ばなかった世界―ありえた、歴史、ものごとがたどったかもしれない他の道、―を評価することから多くを学べるかもしれない。
 しかし、現実の拳銃は弾倉が見えないし、結果(得られた富)は見えるけれども、富が得られる過程は決して見えない