緑の灯火 144 わたしが一番きれいだったとき。 

 2024 05 03 (Fri)
 
 
わたしが一番きれいだったとき 茨木のり子  『落ちこぼれ』 理論社 \1,400
 
10 わたしが一番きれいだったとき
 街々はがらがら崩れていって
 とんでもないところから
 青空なんかが見えたりした
 
 わたしが一番きれいだったとき
 まわりの人たちが沢山死んだ
 工場で 海で 名もない島で
 わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった
 
 わたしが一番きれいだったとき
 だれもやさしい贈り物をくれなかった
 男たちは挙手の礼しか知らなくて
 きれいな眼差しだけを残して皆発っていった
 
 わたしが一番きれいだったとき
 わたしの頭はからっぽで
 わたしの心はかたくなで
 手足ばかりが栗色に光った
 
 わたしが一番きれいだったとき
 わたしの国は戦争で負けた
 そんな馬鹿なことってあるものか
 ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた
 
 わたしが一番きれいだったとき
 ラジオからはジャズが溢れた
 禁煙を破りあときのようにくらくらしながら
 わたしは異国の甘い音楽をむさぼった
 
 わたしが一番きれいだったとき
 わたしはとてもふしあわせ
 わたしはとてもとんちんかん
 わたしはめっぽうさびしかった
 
 だから決めた、できれば長生きすることに
 年とってから凄く美しい絵を描いた
 フランスのルオー爺さんのように
               ね
 
 
YOLO 人生は一回きりよ  『日本からは見えないアメリカの真実』 旦英夫 PHP \1,300 
 
 Seize the Day (その日をつかめ)という言葉がある。ソール・ベローにはそういうタイトルの 小説がある。
 
 YOLO は、You Only Live Once という頭文字言葉(Acronym: アクロニム)。
 人生は一回きりよ! ということだが、二つの文脈で使われるそうだ。
 
 不確かな未来は期待せずに、いまのいまを大事に生きる。なげやりで享楽的と 考える人もいれば、思うようにならない人生を自分らしく生きるための箴言 (しんげん:格言)ととらえる人もいる。
 
 I finally purchased that Itarian-made sports car I'd been looking for...YOLO!
 
 わたしはついに欲しかったイタリア製のスポーツ・カーを買った・・・人生は一回きりよ。
 
 時は新緑の夏。今日から連休の後半。テレビは円高のなか海外旅行にいく旅行者の人たちや近場の国内旅行に する人たちを放送する。
 わたしは消し窓のカーテンを閉め切って、茨木のり子の詩集を読み、村上春樹の「海辺のカフカ」を読む。
 
 
YOLO 海辺のカフカの語彙集  
 
 本の構成メモ: 
 ① 表紙、② 見返し(みかえし):表表紙(おもてひょうし)の裏側、③ 扉(とびら);見返しの次にある、署名、著者名、 発行所名などを記してある部分、④ 奥付(おくづけ):書物の末尾に、書名・著者・発行者・印刷者・出版年月日・定価などを記した部分。
 
 私は最初に本を読むとき、「扉」に読み始めた年月日を書着こむことが多い。
 Haruki Murakami Kafka on the Shore (英訳書)の「扉」には 2006 1 11 (Wed), 2006 2 10 (Fri)、2008 9 15 とのメモがある。 約20年前に最初に読んでから、一か月後にふたたび読み、またその半年後に三度、読んだようだ。
 
 そして今回の読み直しにさいしては、「海辺のカフカの語彙集」を作りながら読んでいる。
 辞書を引き引き読んでいて、こんな単語や成句、表現は覚えておこうと強く感じたときは、その語彙の前に、* とか◆とか  ■とかをつけることがある。
 
 今日、読んだところで、カフカが夜行バスで高松に行くシーンがある。バスからみた夜明けの前の空や雲の表現。
 The sky looks ominous one minute, inviting the next. It all depends on the angle.
 
 空はある瞬間に不吉に見え、次を招待している。角度によって変化する。
 
 これでは何のことがわからない。この inviting は動詞で the next が目的語と思ってしまったのだ。
 じつは、この inviting は形容詞で、
 英英辞書には、inviting = tempting, appealing, attractive, pleasing 。tempting; alluring; attractive。
 英和辞書には、inviting = 気をそそるような。魅力的な、誘惑的な、そそるような。
となる。the next は one minute と対応し、次の瞬間には、となる。そうすると、 
 
 空はある瞬間に不吉に見え、次の瞬間には魅惑に満ちるようだ。角度によって変化する。
 
となる。形容詞の 「inviting」 が「招待するような」、「引き付けるような」という意味であることを完全に忘れている。
 
 
 その少し後、高松行きのサービスエリアのコーヒーショップで、カフカは若い女の子にあう。
 
★ A cream-coloured miniskirt completes her outfit = ミニスケートが服装を完成させる。これがすべてだ。
 
 この complete が訳せなかった。辞書を引く。
 
 complete = 完全なものにする。ぜんぶ揃える。provide with the item or items necessary to make (something) fuu or entire.
 
 完成させるの意味だ。二つの例を見つける。
 
 complete your collection of Britain's brightest gardening magazine. 英国のガーデン雑誌のコレクションを完成させる。
 
 One more page will complete my report. あと1ページで私の報告書は完成だ。
 
 まあ、語学は忘却し、辞書を引き、思い出し、ふたたび、忘れる。この繰り返しなんだなあ。
 
 つづく