原書で読む世界の名作 279  翻訳修行

「海辺のカフカ」村上春樹 14 お椀山から転げるように斜面を駆け下り、助けを求めるために学校に向かいました。 
「Kafka on the Shore」Translated from the Japanese By Philip Gabriel Vintage

 2024 04 28 (Sun)

「あらすじ」
 、国民学校の教師、岡持節子(26歳)は、課外学習で子供たちと「おわん山」にキノコ採りに 出かける。空高くに、B-29と思われる飛行機が飛んでいた。お椀山に入りキノコ採りを始めると、数分後に子供たちがつぎつぎと倒れ始める。
 
 Describe the group that first collapsed.
 
 その最初に倒れた子供たちはどのような構成だったのですか?

 
 
20 It was group of girls. Three girls who were all good friends. I called out their names and slapped them on the cheek-- pretty hard, -n fact-- but there was no reaction. They didn't feel a thing. It was astrange feeling, like touching a void.
  My first thought was to send somebody running back to the school for help. There was no way I could carry three unconscious children down by myself. So I started looking for the fastest runer in my class, one of the boys. But when I stood up and looked around I saw that all the children had collapsed. All 16 of them had fallen to the ground and lost consciousness. The only one still concious and standing was me. It was like ... a battlefield."
 
 touchng a void = 虚空を障る。
 
36 女の子ばかりの三人です。仲が良い三人組でした。私はその子たちの名前を大声で呼び、順番に頬を叩きました。かなり強く叩きました。 しかし反応はありませんでした。何も感じていないのです。私がてのひらに感じたのは、硬い虚空のようなものでした。それはとても奇妙な 間隔でした。
 私は誰かを学校まで走らせようと思いました。私一人の力では意識のない三人の子供を担いで帰ることは不可能です。ですからいちばん足の 早い男の子をさがしました。しかし立ち上がってあたりを見わたしたとき、ほかの子どもたちもみんな地面に倒れていることに 私は気づきました。16人の子どもたちが全員、ひとり残らずそこに倒れて意識を失って いました。倒れていないのは、立って意識を保っているのは、私ひとりだけだったのです。 それはまるで・・・戦場のようでした。
 
 Did you notice anything unsusak at the scene? Any strange smell or sound -- or light?
 
 そのとき現場でなにか異常なことに気づきませんでしたか?たとえば匂いとは、音とか、光とか?

 
 
 [Thinks about it for a while] No, as I already said, it was very quiet and peaceful. No unusual sounds or light or smells. The only thing unusual was that every single pupil in the class had collapsed and was lying there unconscious. I felt utterly alone, as if the last person alive on earth. I can't describe that feeling of total lonliness. I just wanted to desapear into the tihn air and not thinking about anything.
 Of course I couldn't do that-- I had my duty as a teacher. I pulled myself together and reced down the slope as fast as my legs would carry me, to get help at the school.
 
 every single pupil = 学級の子供たちひとり残らず。
 
 total loneliness = とても孤独でした。 
 
 pull my selt together = 気を取り直して。 
 
[しばらく考える]。 いいえ、先ほども申し上げました通り、あたりはとても静かで、平和そのものでした。音にも光にも匂いにも、変わった 点はありません。ただ私の学級の子供たちひとり残らずそこに倒れていただけです。とても孤独でした。何も考えずにそのまま虚空のなかに 消えてしまいたいような気持ちでした。 
 でももちろん私には引率の教師としての責任があります。私はすぐに気を取り直し、転げるように斜面を駆け降り、助けを求めるために学校に 向かいました。
 
◇◇◇ 独白 
 この幽体分離(魂が体から離れて漂う)のような光景は、この物語の大きな伏線になっているようだ。
 前の章で、カフカは、カラスと呼ばれる少年と対話をする。
 カフカは家を出るとき、姉と思われる少女と映った写真をもっていく。父の書斎にはなぜか、 カフカの母の記憶に関係するものは何もない。
 お椀山でキノコ採りを引率した、岡持節子は小さな子供たちが山に迷い混まないように、あるいは、 子供たちは毒キノコを食べないように繰り返し繰り言い聞かせる。
 キノコ採りを初めて、生徒はすぐに次々と、その場に倒れ始める。
 
 米軍のインタビューはここで終わり、その結果はこれ以降では触れられることはない(ように思う)。
 
 じつはお椀山でキノコ採りに参加した16名のうちのひとり(中田さん)の入院治療が長引き、記憶障害 になる。回復後、結果とし奇妙な方法でカフカの父を殺すことになる。まあ、ここではそれ以上は触れないことにする。
 
 作者(村上春樹)はなにげないようすで、このあたりに多くの重要な伏線をはる。
 
[表現]
 村上作品の和文を写経していると気づく。村上の文章には、冒頭の接続詞と本文の間に読点「、」がない。
 ただ意識がないのです。→ 「ただ」と「意識」の間に読点「、」がない → ただ意識がないのです。
 でも、もちろん、私には →  「ただ」と「もちろん」と「私」のあいだに読点「、」はない →  でももちろん私には
 日本語の文体も注意して読もう。