うた 206 

 

 

店の名前  茨木のり子 

 up 2018 09 29
 
 <はるばる屋>という店がある
 インドやネバール チベットやタイの
 雑貨や衣類を売っている
 むかしは南蛮渡来とよばれた品々が
 犇(ひしめ)きながら ひそひそと語り合っている
 - はるばると来つるものかな
 
 <なつかし屋>という店がある
 友人のそのまた友人のやっている古書店
 ほかにもなんだかなつかしいものを
 いろいろ並べてあるらしい
 絶版になった文庫本などありがたいと言う
 詩集は困るといわれるのは一寸困る
 
 <去年屋>という店がある
 去年はやって今年はややすたれの衣類を
 安く売っているらしい
 まったく去年も今年もあるものか
 関西らしい商いである
 
 何語なのかさっぱりわからぬ看板のなか
 母国語を探し探しして命名した
 屋号のよろしさ
 それかあらぬか店はそれぞれ健在である
 
 ある町の
 <おいてけぼり>という喫茶店も
 気に入ったのだが
 店じしんがおいてけぶりをくわなかったか
 どうか
 
 
出展:「依りかからず」 茨木のり子 ちくま文庫 
 
 
◆◆◆ as of today (2018 09 29)
 茨木さんのうたのなかの、ことばがいいなあ。
 さりげなく使っているようだが、多くの蓄積した言葉の中から「うんうん」とうなりながら選び出し、推敲をかさねているの だろうか。
 それとも、さっと、自然に溢れ出るのだろうか。
 
 辛辣な観察眼もなかにも、ユーモア(とテレ)がある。たとえば、「詩集は困るといわれるのは一寸困る」