第一部 山人って何?

おもな登場人物:
南方熊楠 南方曼荼羅リゾームの創造者、在野の博物学者 
     和歌山県でツイートしている。

柳田國男 民俗学の創始者(ブロガ) 東京に在住


野次(やじ) 探偵社Y&KのY 私立探偵(伊賀忍者の末裔)コンビで「やじきた」
北川     探偵社Y&KのK 探偵助手 元獣医
コロンボ警部 殺人課の警部

勝四郎  熊楠の弟子 AKB48のファン
熊五郎  熊楠の弟子 AKB48のファン


 この小説の登場人物は実在した人物の名前と同じ名前を持っています。ただし、この小説の中の出来事やブログ、ツイッタをはじめとするすべてのことはフィクションです。
※登場人物の何人かは架空の人物です。

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 朝もやの中、まだ六時前だというのに、文字どうり、長蛇の列がうねるようにかたち作られている。どれも眠そうな顔はなく、期待と興奮の顔ばかりだ。今日は念願の握手会、AKB48のメンバーと握手し、会話もできるのだ。勝四郎は相棒の熊五郎と一緒に、長蛇の列の中ほどに入ることができた。かれらの前方には、すでに二千人以上はいるだろう。けど、それぞれ、握手するメンバーが違うので、受付開始されれば、もっと早くメンバーに会えるだろうと、甘い期待を抱くのだった。

 勝四郎はチームKのメンバー△△△美と握手ができた。腕が感動で震えたままで、自分が何を言って、相手から何を言われたか覚えていなかった。笑顔で手を振ってくれたことだけが脳裏に焼きついていた。しばらく、クールダウンが必要だ。なので、熊五郎がチームBのメンバーの△△夏△との握手が終わったのかどうかなど、すっかり忘れていた。
 仮設のブースを離れて、握手会の風景を眺めたり、余韻にひたりながら、ぶらぶらと歩いていた。すると、屈強そうな警備員に一本背負いをされて、地面に転がっている男がいた。よくみると、熊五郎だった。熊五郎に駆け寄り、なんや、おまえひつこすぎたのと違うかというと、もはや理性を喪失していながら、感動の余韻に包まれた顔の熊五郎は涎を口の端から垂らしながら、麻薬中毒患者のような表情で、でへへへと笑ったので、思わず、抱えていた熊五郎の頭から手を離してしまった。熊五郎の頭は砂地の地面に落下したが、痴呆状態の顔のまま笑っている。
「大丈夫ですか」と勝四郎の後ろから男の声がした。振り向くと、ダークスーツで、笑顔の中年の紳士が、熊五郎の顔を覗くように、腰をかがめていた。
 勝四郎は生返事をすると、スーツの男は熱狂的なファンですねと笑顔のまま、熊五郎と勝四郎の顔を交互にみた。「今日はどちらから?」と聴かれ、「和歌山からです」と答えたら、男は意外な顔をした。
「ほお、和歌山ですか。実は私の父が和歌山出身なのですよ。その縁で、今度新しく、和歌山のユニットWKY24を結成し、プロモーションの前広告に、この会場に来てたんです」
 男は、名刺を差し出し、来週、WKY24のプロモーションを、和歌山の田辺でおこなうので、よかったらきてくださいといい、パンフレットを、勝四郎達にくれて、去っていった。
 名刺には「美元財団 理事長 河本芳之介」とあった。パンフレットには、24名のメンバーの顔写真が並び、イベントの日付、来週の5月15日が印刷されていた。和歌山からもユニットがでるのかと、やや感動を覚えた
 勝四郎と放心の熊五郎は、顔を見合わせ、今度いってみようかと頷きあうのだった。




「ヨ・ロ・ピ・ク・ど・う・ぞ」
野次の携帯電話の留守メモに入っていた北公からのメッセージだった。
かすれた声で、とぎれとぎれのメッセージだった。三回くらい聴きなおして、ようやく、メッセージの内容がわかった。これは、野次と北公の間で、やばいことが起きたときの暗号のようなメッセージなのだ。浮気調査をしていて、尾行をまかれたときなどにしか、いままでは使ってなかったのだが。
 北公になにかあったのだろうか。携帯電話を鳴らしても、誰もでてこない。もう十回くらい繰り返したが、北公は出ない。やはり、何かあったと考えたほうがよさそうだ。
  
どうすることもできず、北公が戻るかもしれないので、宿を動くわけにもいかず、大根泥棒の推理の続きを考えていたら、もう昼飯どきになってしまった。おかみに頼み、うどんを頼んだ。
 けつねおうどんをたべていたら、おかみが警察のひとがきてますよ、と告げた。驚いて、うどんを吹きそうになった。口の端をふきながら、野次は玄関口まで、おかみさんと一緒に降りていった。
 玄関には、口ひげで制服姿の警察官とよれよれのレインコート姿の中年男が立っていた。
 口ひげの官憲が、野次の身元を確かめた後、見覚えはないかと、携帯電話を差し出した。
 北公の携帯電話だった。
 口ひげ警官は、今朝、北公が山の斜面で倒れていたのを発見されたこと、命には別状はないが、意識不明の重態であること、和歌山県の病院へすでに搬送され、目下、ICUで絶対安静の状態であることを、電報のように、無駄な言葉を一切つかわずに、告げた。
 こちらは、コロンボ警部であらせます、とよれよれのレインコートの中年男を紹介した。ああ、かの有名なコロンボ警部ですか、野次は、コロンボと握手をした。
「いえねー、ホームズさんはもう引退でしょう、で代わりにあたしがよびだされたというわけですよ。ウチのかみさんもホームズさんのファンでね。ここは和歌山ですか、いやー、いいところですね。あたしも捜査本部を、ここに立ててもらって、でも、今は明治ですからね。科学捜査なんかできませんよ、まだ。とりあえず、おたくさんも探偵でしょ、だから、あたしと一緒に捜査にご協力を願おうと、こういう次第なんですよ」
コロンボは右手を眼の上に翳しながら、長々と話していたが、手の影になって表情がわからない。野次は自分が容疑者のひとりにもなりうることに思い当たり、コロンボがこの宿にとまるということは、尾行する手間をはぶこうということだとすぐに理解した。

 こうして、野次は大根泥棒と北公殺人未遂事件とのふたつの捜査というのか、事件に巻き込まれてしまったのだった。

(つづく)