第一部 山人って何?

おもな登場人物:

柳田國男 民俗学の創始者(ブロガ) 東京に在住

門前ルイ 劇団「ノワール」の座長

白崎泰造 カメラマン 


 この小説の登場人物は実在した人物の名前と同じ名前を持っています。ただし、この小説の中の出来事やブログ、ツイッタをはじめとするすべてのことはフィクションです。
※登場人物の何人かは架空の人物です。


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 門前ルイは山人について知ろうと、柳田のブログを読むうちに、祖母から受け継いだラテンの血が騒ぐのだった。スペインの民話が小さい頃から好きだったし、なにより、地中海の地から日本に来た、かの尊敬するラフカディオ・ハーン、あの小泉八雲の作品を、いつも読んでいた。劇のモチーフは、スペイン民話や小泉八雲の怪談から取ってきているのだ。
 柳田に連絡をとり、まずロケ地を探すほうがよいのではと提案した。ラテン系なので、まず、行動しながら考える性質が強いのだ。男についても、一晩をすごしてから付き合うかどうか、感覚で決めることが多く、今までの男はすべて、一晩限りの付き合いにしかならなかった。大した男には出会っていないのが、自分の不幸とは思わず、ケセラセラ、明日はなるようになる、という祖母の教えに従っていたし、それが性に合ってもいた。
 そんな自分とはどこか違ってはいるが、日本の文化や日本の女性は好きだった。祖母の親戚筋が来日してやってくると、フジやまやゲイシャについて聞きたがるような、単純でわかりやすい輩には、小泉八雲の話や、江戸の怪談や落語について教えてやるのだった。天ぷらのうまいところ、うなぎ、どぜう、すき焼きもあるのだと。芸者よりもキャバクラのほうが、チープだと教えてやる。
 
 ルイの運転するベンツに、柳田と白崎の二人が後部席に同乗していた。ふたりは自動車なるものが、目新しいようだ。東京から近い千葉県の山間をロケ地候補にしてみようと、ルイは提案した。最初、柳田はN県を候補地にあげていたが、白崎が、N県までいくと、東京との往復が厳しいと渋った。馬車が碓氷峠を越えるとき、とても危険なのだそうだ。食料も運ばないといけないので、運送費もかかる。
 千葉県の海辺には、ルイの父親の別荘があるので、中継地に使えそうだった。海水浴シーズンには、まだふた月ほど早い時期だし、人も少ない。千葉の内陸部には、山間部も多く、もしかしたら、ほんものの山人までいるかもしれないほど、深い山もあるらしい。いろいろ条件を考えてゆくと、ようやく柳田も折れてくれた。

「柳田センセ、こんどの、このおいら達の官の仕事って、お金はどこの管轄なの」
白崎が、サングラスとハンチング帽の柳田に聞いた。柳田はなんとなく、自分の顔を隠したがっているようだ。マスクまでしているのだから。
「いえ、ちょっと内密なものですので明確にはあかせないのですが、研究費扱いで費用がおります。あとわたくしの所属する人類学会の支援もあります」
「ふーん、なかなか、むずかしそうだなんだねぇ」
白崎はタバコの煙を窓の外へ吐きだした。
「モンゼンさん、モンゼンさんとこで、AVやってくれそうな女優さんか男優さんいないかねぇ。企画ものってね、旬じゃないとだめでさぁ。すぐ飽きられちゃうのよ。あとは熟女系とかね。有名女優も飽きられると、乱交ものでバルクにして出演させておしまいなんてね。まるで銀行の不良債権みたいに処理しちゃうわけよ」
「AV女優って、ちなみに何人くらいいるんです」ルイは好奇心から聞いてみた。
「そ~ねぇ、プロダクションごとに、数十人くらいでしょ、多いようでそんなに多くないのよ、実は。企画モノっていうのは、素人つかったり、売れなくなったモデルとか、モデルの卵とかね。雛になる前にAVで使い捨て。ヒットすれば、めっけものなんだね。あとはエキストラやってるひとたち。結構、器量のいい子とかもいるのよ。上昇志向が強いのもね。だからAV作品でジャンルごとに整理すれば、たくさんありそで、そうでもないのよ。だから、あんまりたくさん観てるとね、ある期間はだいたい同じ女優だったりするわけ」

 いくつかの山をめぐり、病気にならなそうな、落ち着いた場所で、マムシとかがでてこないような場所をということで、ロケ地が、日の暮れる頃にようやく決まった。つまり結局、門前家の別荘地の裏山に決まったのだ。
 白崎はカメラでロケ現場の風景や海の風景をとり、さらに、何を思ったか、海を背景にルイを撮影してくれたりした。
 帰り道、白崎はしきりにAVに出ないか聞いてきたが、ルイはこればかりは、即座に断り続けた。柳田は東京駅で別れるときも、サングラスと帽子、マスクをはずそうとはしなかった。はたして、本人かどうかさえも、判然としなかったのだ。

 一週間後、門前家の別荘地に、出演者五名、カメラ白崎、監督?柳田、見学するルイとルイの劇団研究生、花岡千賀子の九名が集合した。
 その日も、柳田はサングラスに帽子、マスクで現れた。

 はたして、柳田は本人なのか、DNA判定でもしたいルイだったが、どんなロケとして進行するのか、そちらの好奇心のほうが大きく、初夏から梅雨になる前ののどかな季節にひたりながら、ワイングラスを片手に、別荘のバルコニーから海を眺めているのだった。

(つづく)