今日の母は、とにかくよく動く。
朝起きたら、もう雨戸は開いていて、新聞も取りに行っていた。
「え?」
と思っているうちに、朝ごはんまで作っている。
もちろん、長時間立っているのはまだしんどいみたいで、キッチンに寄りかかりながら料理をしている。
「あぁ、できることはたくさんあるんだな」
本当にすごいことだと思う。ありがたい。
でも、その一方で、重いものを持ったり、段差のあるところへ行ったり、何かするときは一声かけてほしい。
そうお願いした。
「わかった。」
そう返事はする。
……とはいえ、返事だけなのは百も承知。
母に聞いてみた。
「これからどんな生活がしたい?」
返ってきた答えは、
「今までと同じ生活。」
そして、
「あなたにはいてほしい。」
母は、私にはそばにいてほしい。
でも、自分のペースは崩したくないんだろう。
一日様子を見て、もう一度ちゃんと話をした。
病院で「生きて帰れないかもしれません」と言われたこと。
今は元気に見えても、体力も筋力もまだ回復途中なこと。
そして、私が一緒に暮らすということは、「これまでと同じ生活」のままではいられないこと。
これまでと同じでは、また倒れてしまうかもしれないこと。
自分でも「口うるさいなぁ」と自覚しているし、そんな自分にも嫌気がさすこともある。
病院のスタッフや近所の方から「娘さんが一緒なら安心ですね」と言われると、少しだけ複雑な気持ちにもなる。
私にも私の人生がある。
母のためだけに生きるのではなく、お互いが安心して、それぞれの人生を大切にしながら暮らしていきたい。
なので、もう一度お願いしてみた。
「何かするときは、一声かけてね」
今度は、母も神妙な顔で頷いていた。
……と思ったら、そのあと普通に重いものを動かしていた。
たぶん、この話はあと五万回くらいすることになるんだろうな。
そんな気がしている。