参議院選挙が始まりました。日本国憲法改正の国会議員による発議要件をなぜ過半数にまで下げてはいけないのかを、東京大学の長谷部教授の論説文(2013年7月5日、東京新聞系地方紙朝刊より)が明快に語ってくれていますので、少し長くなりますが以下に引用します。
「憲法96条では、憲法改正の発議に衆参両院の3分の2の多数決が必要だとされている。
なぜ、3分の2の特別多数決が要求されているか、おさらいをしておこう。
日本国憲法は立憲主義を基底とする。
人の世界観・人生観はさまざまである。
多様な見解や立場の個人をそれぞれ尊重しつつ、社会生活の便宜がすべての人に公平に行き渡ることを目指すのが立憲主義である。」
「憲法は、世の中にはさまざまな意見や立場の人がいるという前提に立っている。
そうである以上、できるだけ幅の広いコンセンサスに支えられる改正提案であってはじめて、長く遵守すべき、安定した社会の基本原則として憲法に取り入れることが可能となる。
単純多数決による発議を許すと、その時々の政治的多数派による党派色の強い改正提案がなされる可能性が高くなる。
それでは、日常政治での多数派ー少数派の転変から距離を置いた、長期的に守られるべき基本原則という憲法の性格が破壊される。
特定の党派の人々にとっては善い原則であっても、他の人々にとっては自分たちの世界観や人生観を否定する、アンフェアな憲法になりかねない。
3分の2という特別多数が改正の発議に要求されるのは、このためである。」
「国民投票で結論を出すのだから、国会の発議は単純過半数で構わないではないか、と反論する人もいる。
これは単純にすぎる議論である。
憲法は、まだ生まれていない将来世代を含めた長期にわたる国益を左右する社会の基本原則である。
たとえて言うなら、子や孫の代まで運用し続けてやっと投資の善しあしが分かる金融商品のようなものである。
リスクの有無はともかく、本人であるあなたが今決めるのだから、どんどん提案させてください、というわけにはいかない。」
「長期の国益に関わる基本原則を変えようというのであるから、国会でじっくり審議をし、長期にわたるコミットをしても安全だとだいたいの人が考える改正案であってはじめて、国民に対して承認を求める発議をすべきだということになる。
現在の有権者が多数決で決めるのだからそれでいいはずだ。
主権者の自己責任だからどんどん提案すればよいというのは、長期的に運用される金融商品のリスクを度外視して、次々と売り込みをかけるのと同じ危なっかしい議論である。」
「注意を要するのは、憲法は「国民」ということばを二つの異なる意味で使っていることである。
憲法改正の国民投票をしたり、最高裁裁判官の国民審査をしたりする国民は、「現時点での有権者団」という意味での国民である。
他方、憲法前文で「この憲法を確定する」とされている国民や、国政を政府に信託しその福利を享受する国民は、「将来世代を含めて永続する団体とそのメンバー」という意味での国民である。
現時点での有権者団の判断が、永続する団体としての国民の利益に関する正しい結論と一致するとは限らない。
うっかりした答えを有権者団が出さないために、両者の一致を図るために国会での慎重な審議を要求している。
国会の発議と国民投票とは適切な改正に導くための連続した一つのプロセスであり、二つに切り離して考えてはならない。」
「...憲法を軽く扱えば憲法自体も軽くなる。
政治的多数派が交代するたびに変わってしまう、もはや憲法と言えないような軽いペラペラの憲法が良いのであれば、憲法を軽く扱うべきだろう。
しかし、どっしりと重みのある、いざというとき頼りになる憲法が良いのであれば、憲法を軽々しく扱うのはやめるべきだろう。」
(以上で引用終わり)
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憲法96条が改正され、改憲発議のハードルが下げられると、9条の改正、軍隊の保持、基本的人権の制限、そしてやがて隣国韓国のように徴兵制の実施へと進む可能性も出てくるのではないかと危惧します。
96条の憲法改正発議要件を「過半数」に改めると公約で明示しているのが、「自民党」と「維新の会」。
「公明党」は、「公約では”厳格な改正手続きを維持”と慎重だが、”96条改正は改正の内容とともに議論するのがふさわしい”とも記した」(朝日新聞2013年7月5日朝刊)とあり、96条改正に反対とは言い切らず、賛成もありうる立場にみえます。
「みんなの党」も発議要件の緩和を掲げ、改正に前向き。
「民主党」「共産党」「社民党」「生活」「みどりの風」「新党大地」は96条の先行改正に反対です。
(朝日新聞2013年7月5日朝刊より)
世の関心の多くが景気が良くなるかどうかに向いているきらいがありますが、今回の参議院選挙で憲法96条改正賛成派が2/3を超すと、まがりなりにも民主主義を謳歌してきた日本が、思想の自由のますますの制限(今でも、気に入らない政治的主張の新聞投稿に対して嫌がらせ脅しが生じているとのこと)、既に米国から批判されているように右傾化の進展、子どもを戦場に送らざるを得ない国へと大きく変貌していく第一歩になるのではないかと危惧します。
景気やアベノミクスの是非だけではなく、日本の将来が大きく変わりうる重大な分岐点に立っていることを認識して投票に臨みたいものです。
(メールアドレス: green77sun-elect@yahoo.co.jp)