今日の京都新聞に、目立たない記事だけど「スマホ片手に山科巡り スタンプラリー 光秀胴塚など」という記事が掲載されていた。ローカル紙らしい地元ネタである。
内容をひと言で言えば、「京都市山科区内のポイント(16カ所)を巡って、その場所でスマホを使ってスタンプを集める」という仕組みである。
こうして集めたスタンプが、あらかじめ定められている図によって、縦・横・斜めのどこか1列でも『ビンゴ』になれば、参加賞として「清水焼の箸置き」がもらえるという。
ホントに上手く回れば、16カ所のポイントの中の4カ所だけ回っても1列は『ビンゴ』になる。そうなればこれはとても効率が良い。
さらに参加賞以外に「ダブルアップチャンス」が設定されていて、参加賞をもらう時に申し込めば、『ビンゴ』となった列数に応じて、抽選で山科の名産品が当たるということだ。
「それがどうした」と言われると困ってしまうけれど、区役所が主催する「区民まつり」がコロナ禍で中止になったので、その代替案として実施するそうだ。
私は良い試みだと思う。新聞記事によれば、対象ポイントとなっている場所も、区民から募った〝お薦めポイント〟ということだから、区民と密着した企画になっている。
山科区内にある「地下鉄東西線」の5つの駅に、これら〝お薦めポイント〟が散らばっている。区民を中心にどれくらいの人が、このイベントに興味を持ってくれるだろう。
参加賞である〝箸置き〟1個をもらうために、地下鉄に何度も乗るのであれば、それだけで金銭的に足が出てしまう、という考え方をすればこの試みは成立しない。
面白いもので、千葉都民の私の娘家族は、東京メトロが主催した〝駅のスタンプラリー〟に、孫たちがとても喜んで参加したことを、写真とともに報告してきたことがあった。
休日を一日かけて、地図を片手にあちらこちらを訪ねて回る。その結果、何がしかの賞品を手にできる。子どもたちにしてみれば、こうしたイベントがけっこう楽しいのだ。
このスタンプラリーというイベントは、ひょっとすると私が関わってきた「半径3kmの旅」の〝原点〟なのかもしれないと思った。
まずは「フォト・ロゲーニング」という、渡された地図に示されている〝図像〟を探して撮影し、その撮影ポイント数を競い合う旅、という形式と比較的近い。
だけどもう一歩進めて考えれば、このスタンプラリーで回る場所に明確なテーマ性を持たせれば、それはそれでコーチングと白地図を埋める作業に結び付いてくるかもしれない。
巡るポイントは、参加者各個人が自分の感性に基づいて設定し、その過程で自分なりに白地図を埋めてゆくという作業を入れれば、単純なスタンプラリーを超えるものになる。
極端に言えば、スタンプラリーとは正反対の指向性を持ったイベントにできるかもしれない。このポイントを回ってスタンプを集めなさい、という仕組みとは正反対の考え方だ。
「この地域であなたが面白いと思ったポイントを、テーマに沿って探して、地図に書き入れて下さい」ということは、区民から「お薦めポイント」を募った部分に当たると思う。
スタンプラリーを行うのではなく、スタンプラリーの対象となり得るようなポイント探しを行う旅が、「半径3kmの旅」ではないかということになる。
こうして見出したポイントを地図に図像として示し、それらを探して撮影する楽しみ方が、「フォト・ロゲーニング」となる。いわば、その旅の前段の作業を行うようなものだ。
そう考えれば「聖地巡礼の旅」など、アニメの名シーンの舞台となった場所を訪ねる旅は、コーチングをしてくれる人もなく、最初の段階から自分で取り掛かる旅だと言える。
「聖地巡礼の旅」⇒「半径3kmの旅」⇒「謎解きゲーム(フォト・ロゲーニング)の旅」⇒「ブラタモリの旅」という具合に、段階を追って自分が「余白」を埋める作業が減って行く。
つまり「ブラタモリの旅」とは、自分で見るべきポイントを引き出す作業がいっさいなく、すべてお膳立てをされる代わりに、徹底的に質の高い解説をしてもらえるという旅だ。
だからこの場合は、自分から何か「余白」を見つける必要はない。逆に「聖地巡礼の旅」であれば、まったく白紙の状態から自分でポイントを見つけるという、「余白」ばかりの作業になる。
こうして見方を変えてみれば、「半径3kmの旅」を取り巻いている様々な考え方は、随分スッキリと整理されてくるように思われる。
区民をメインの対象として、スタンプラリーという仕組みで、行政区という地域に興味を持ってもらう、というのが今日の記事にあった企画の出発点だったと思う。
たったそれだけのことかも知れないけれど、このイベントを取り巻いている状況を考えれば、いろいろな考え方で取り組みが可能になることもわかってきた。
「半径3kmの旅」という立ち位置からスタンプラリーを見れば、「行政区内で〝ここ〟と思われるポイントだけど、まだメジャーではない場所を探す」というテーマが設定できる。
このテーマに沿って、第1段階での参加者が思い思いに区内を歩いて、自分の感性で〝ここ〟というポイントを探して回る。
さらに、参加賞や「ダブルアップチャンス」も、このメンバーが歩いている中でピックアップできれば面白いだろう。
こうして設定されたポイントを、次はスタンプラリーとして、もっと大勢の方が参加して歩く。その結果参加者が『ビンゴ』を獲得し、参加賞や「ダブルアップチャンス」を貰う。
つまり、1つのイベントを実施するために、2段階のツアーを構成できることになる。こうした構成によって、様々な楽しみ方を求める参加者に合う旅が提供できる。
これは、案外と面白い方向性を示しているかもしれない。「半径3kmの旅」が作り出す「余白」を楽しみたい参加者と、そこから生まれた「スタンプラリー」という楽しみ方を選ぶ参加者だ。
この点は、もっと具体的に考えてみるべきかもしれないと思う。