デジタルトランスフォーメーションというから難しく | がいちのぶろぐ

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昨日、ヒマに任せてオンラインの色々な記事に目を通していたら、1年ほど前の「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載されていた記事に目が留まった。

 

「デジタルトランスフォーメーションに重要なのはテクノロジーではない」と題された記事だった。最近目にするようになってきたDX、すなわちデジタルトランスフォーメーションという言葉は、もう1年も前から議論になっていた。

 

しかもタイトルに「重要なのはテクノロジーではない」と書かれている。これは面白そうだと思って、じっくりと読んでみた。結果は、きわめて納得できる話だった。

 

 

 

まず冒頭で、「デジタル技術の大半が、効率の向上とカスタマー・インティマシー(顧客との親密な関係)の『可能性』をもたらすため」にあるはずだとなっている。

 

だが、「人々が変革に対する正しい意識を持ち合わせておらず、現在の組織慣行に欠点がある場合、デジタルトランスフォーメーションは単に、その欠点を悪化させるだけ」という。

 

そこでこのDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功に導くための「5つの教訓」が述べられていた。

 

〝そもそも〟から言えば、DXとはデジタル技術が普及・浸透した状態において、どうすれば〝変革=トランスフォーメーション〟が行えるかということである。

 

だからIoTとかAIといった、個別のデジタル技術の進展の話ではない。個々の組織文化の下で、デジタル技術を組み合わせるなどして、目指す大目的=変革を達成するための考え方の問題だと思う。

 

だから「教訓」、つまり考え方の基礎となることを知っておくべきだというのが、この論文が書かれた趣旨のようだった。

 

5つの教訓は、以下のようなものだった。

教訓1:何かに投資する前に、自組織の事業戦略を明確にする

教訓2:組織内の人材を活用する

教訓3:外側からの視点にもとづいて顧客体験を構築する

教訓4:失職に対する従業員の恐れを認識する

教訓5:シリコンバレーのスタートアップの社風を持ち込む

 

DXなどと新しい言葉を持ち込むから、何か新しい技術のような気もするが、「自組織の事業戦略」に沿って、それにふさわしい状況へ自分たちのシステムを作り直そう、と考えれば良いだろう。

 

だから「教訓1:何かに投資する前に、自組織の事業戦略を明確にする」の部分では、「幅広い事業戦略によって導くべき」であり、「明確な目標を定めた後、どのデジタルツールを導入するかを決定」すべきだとなっていた。

 

また、「教訓2:組織内の人材を活用する」では、「日々の業務で何がうまく機能しており、何が機能していないかを知り尽くしている」から、「組織の変革に取り組む際は組織内の人材に」頼るべきだとされていた。

 

さらに「教訓3:外側からの視点にもとづいて顧客体験を構築する」のところでは、「目的が、顧客満足度および顧客との親近感の向上である場合、顧客から詳細な意見を得て分析する段階を経るべき」となっていた。

 

何だか当然のことを言われている気がする。DXだろうが何だろうが、顧客から得られた詳細意見を分析しないで、顧客満足度を上げることはできないだろう。

 

その点、「リーダーはえてして、ある特定のツールやアプリを導入すれば、それだけで顧客満足度が上がると期待」しがちだが、それは間違っているということだ。

 

そして「教訓4:失職に対する従業員の恐れを認識する」ということは、これまでもオフィスコンピュータ(オフコン)の導入時期だった、30年以上前から同じことが繰り返し言われてきた。

 

こうしたコンピュータ化、今ならデジタル化という動きについて来られない従業員が、「変化に抵抗する可能性」があるのは、古今東西を問わずいつも起こり得ることだ。

 

だから「参加者全員に、自分にしかできない組織への貢献とは何かを考えさせ、その強みをデジタルトランスフォーメーションのプロセスの構成要素に結びつけて」もらうようにすればいいとされていた。

 

しかし、これは言うほど簡単にはできない。抵抗勢力をどのように納得させられるかが、コンピュータ化やデジタル化における大きなポイントになってきた。

 

この論文でも、自分の強みを「プロセスの構成要素に結びつけ」ること、すなわち「自分がすでに得意なことを、さらにうまくこなせるようになるための手段が新たなテクノロジー」だと理解させなさいと言っている。

 

これは、時に大変な作業になることもある。最近で言えば、コロナ禍での〝リモートワーク〟に抵抗し、出社を強制する上司が問題になっている。

 

そもそも〝リモートワーク〟などは、〝働き方〟に対するDX、すなわちデジタルを用いた変革そのものである。これに着いて来られなくて抵抗勢力となり、出社を強制する上司などもいるのだ。

 

最後の教訓である「教訓5:シリコンバレーのスタートアップの社風を持ち込む」というのは、さすがにそこまで行ける日本企業が、いったいどれほどあるだろうと思ってしまう。

 

「シリコンバレーのスタートアップは、迅速な意思決定、ラピッド・プロトタイピング(素早い試作)、フラットな組織構造」で知られているが、これはなかなか真似できない。

 

DXの場合には「スピードと試作の必要性は、他の変革マネジメントの取り組みよりも顕著」であるから、ということらしい。

 

この考え方は、こちらも流行りの〝デザイン思考〟と似ているような気がする。〝デザイン思考〟を取り入れること、つまりアイデア→試作→修正の繰り返し、という考え方自体が、もうすでにDXにかなり近い存在だとも言えそうだ。

 

論文でも「最善策を選択するには通常、広範囲に及ぶ実験をする必要」があると言っている。

 

つまり日本型組織のように、「決定がいくつもの管理層を通らなければ進まない」ようでは、「間違いの発見と修正を素早く行う」ことはできない。このこと自体が、DX以前に改善すべき問題点だろう。

 

論文は最後に、「デジタルトランスフォーメーションが成功するため」には、「リーダーたちが基本に立ち戻る」必要があり、「従業員の意識、組織の文化とプロセスを変えることに注力」すべきだとなっていた。

 

この論文を通してわかることは、DXなどと言う新しい言葉に惑わされるのではなく、大目的のために自組織はどうあるべきか、何をなすべきかをまず考えようということだ。

 

そのためには旧来の方法にすがり付くことから脱出し、目的のために必要なことをとにかくやってみて、手直し・修正をしながら進めばいいということだろう。

 

DXなどと言う前に、やるべきことが見えてくるような論文だと思った。