そう来たか、と思ってしまった。なるほど、そういう手があったかと。今日配信されたインターネット情報誌「TRIP EDITOR」に掲載されていた記事である。
「おうち時間を楽しもう!京都らしい“和の手作りキット”」と題された記事だった。なるほどねぇ。この間の外出自粛で、様々な〝手作り〟がちょっとしたブームになっている。
家の中で長く過ごしていると、特にこれといってすることもない時間が多くなる。たまには映画を見たり、中にはゲームを徹底的に行ったりする人もいるかもしれない。
その一方で、我が家でも家人が手作りマスクを幾つも作っていた。もうホントに長い間動かしていなかったミシンを、記憶を頼りに動かしていた。
このように家の中でできる、いわば〝時間つぶし〟も兼ねた〝手作り〟は、こんな時期だけに確かに受ける可能性がある。そこで「京都らしい“和の手作りキット”」ということだ。
京都という町は、それこそ長い間、家内制手工業の〝工業の町〟だった。西陣織しかり、陶磁器しかりである。様々な伝統工芸品は、そのための器材や道具はもちろん必要だけど、基本的には家の中で作られていた。
今でこそ独立した工房や、中には町工場のような専用の作業スペースを持っている作家さんや職人さんでも、かつては家の中の一室で作業していたという場合も多い。
だから、必要な道具類と材料を合わせて入手できれば、いわばプラモデル作りや家庭科の延長線上で、素人でも家の中で何かを作ることは可能だということになる。
それで「お取り寄せ」が可能な手作りキットを紹介する、という記事になったようだ。探してみれば、こうした取り組みをしている工房なども少なくないと思う。
今日の記事で取り上げられていたのは、「和菓子」「匂い袋」「つまみ細工の〝かんざし〟」「襖紙(ふすまがみ)を使った箱と扇子」の4種類だった。
(よし廣・和菓子手作り体験/ホームページより)
これらはそれぞれ、プロのお店が材料と道具類などもセットにして通信販売をしているというのだ。これまでも来店型の手作り体験を行っていた、というところもある。
(同上/体験セット通販)
和菓子だったら、デパートや和菓子の小売店に行けばいつでも売っている。その他のものも、生活する上で特になくてはならないという必然性はないものだ。
だから普通に考えれば、衰退気味の伝統工芸といっても良いだろう。そもそも「かんざし」などは使う人があるのかしら、と思うような製品だ。
(京都おはりばこ/つまみかんざし体験キット)
だけどそれをあえて自分の手で作ってみたら、そこには作る楽しみもあれば、せっかく出来上がったものだから何とか使ってみよう、と思うこともあるだろう。
たとえ通販で手作りセットを売ったとしても、それでどれほどその店の売上げに寄与するのか、という質問はこの際は〝野暮〟というものだろう。
(ふすまクラフト/手作り体験キット)
そのままで放置しておけば、見向きもされないかも知れない伝統工芸品を、とにかく手に取ってもらえる機会である。これが「入口」となって、興味を持ってもらえるかもしれない。
こうした〝手作りキット〟を通販で購入した人の中で、仮に1人でもその商品に興味を持つ人が現れれば、ゼロが1になるのだ。これは凄いことではないだろうか。
そう考えると、こうした伝統工芸と触れ合う「入口」として、〝手作りキット〟を通販で販売するという戦略は決して悪いものではない。
(山田松香木店・匂い袋手作りキット/ホームページより)
今日の記事によれば〝手作りキット〟の作り方も、今の時代らしく動画で配信して見られるようになっているという。だから動画を見ながら、送られてきたキットを作ってみる。
そうなれば、一応の器材・道具を手に入れたのだから、もう一つ作ってみようと思う人もいるかもしれない。購入者のリストはあるのだから、定期的に次の作品を勧める勧誘も行うことができる。
ただ普通の状態であれば、こうした〝手作り〟に興味を持ってもらうことは少ないだろう。この時期だからこそ、という〝狙い目〟の時期ということだ。
これはこれで、アイデアとしては実にタイムリーだと思う。京都の伝統産業関連の様々な仕事は、現在、青息吐息の状態になっている。
もともと体力が弱っていた業界だったものが、観光客がいなくなったために、土産物としての需要まで一気に無くなってしまったのだから。
そう考えれば、京都市もこうした動きを積極的に後押しし、PRすべきだと思う。「困りましたね」と言っていても、何一つ解決の足しにはならないのだから。