地方鉄道も本気のプランで再興し | がいちのぶろぐ

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昨日に配信されていたダイヤモンド・オンライン誌で、「日本一の車社会、福井県で鉄道利用者が大幅増加している理由「という記事を読んだ。筆者は、鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏という方だった。

 

福井県は、私が住んでいる京都府と境を接している県であり、私自身もこれまでに何度となく出かけたことがある地域だから、思わず興味を持って読んでみた。

 

記事では、「1世帯当たりの自動車保有台数は全国平均1.058台(201811日現在)」であるのに対して、「福井県は1.746台で全国1位」だと紹介されていた。

 

それに比例するように、「2018年の人口10万人当たり交通事故死者数のワースト1位も福井県」という、嬉しくない事実も紹介されていた。いずれにしても、福井県が車社会であることは、疑いのないことだろう。

 

そんな福井県には、JR北陸本線の他に、実は2つの私鉄が存在している。それが「えちぜん鉄道」と「福井鉄道」である。

 

 

(JR福井駅前の恐竜像)

 

これらの私鉄は、近年にJRから切り離されて私鉄となったということではなく、元々、福井県の北部「嶺北地方」と呼ばれる地域で営業してきた私鉄だった、という経緯がある。

 

「えちぜん鉄道」は、前身の京福電鉄福井本線が2000年と2001年に、相次いで列車同士の正面衝突事故を起こしたために、「国土交通省から『安全確保に関する事業改善』と『即時全面運行停止』が命じられ」た。

 

その結果、京福電鉄が「事業改善の余力がないとして営業再開の断念」したという事情があった。この営業の断念は、「沿線住民も時代遅れの電車がなくなったところで大した影響はないと受け止めて」いたらしい。

 

ところが、「通勤・通学客が代行バスに乗り切れなかったり、周辺道路で大渋滞が発生したり」という事態を引き起こしたのだ。この事態を受けて、「福井県や福井市など沿線自治体の支援により、「えちぜん鉄道」が設立され事業を継承した」ということだ。

 

 

(えちぜん鉄道)

 

「福井鉄道も2008年に経営破綻するが、えちぜん鉄道の教訓を生かして県と沿線自治体の主導で再建」されたという苦難の歴史を持っている。

 

つまり、全国的に見られる〝地方鉄道の苦境″という状況は、福井県でも同じように起こっていたということである。それが、この2つの私鉄の利用客が大幅に増加したというのである。

 

記事によれば、「『えちぜん鉄道』の通勤定期券利用者数は2004年の約37.8万人から2018年度の74.7万人へほぼ倍増、『福井鉄道』も17.4万人から38.2万人へと2倍以上に増加した」ということだ。

 

これで一気に、経営が赤字から黒字に転換したのかどうかは、記事では書かれていないが、少なくとも変化の兆しが見えるということだろう。

 

福井市を中心とした「74町から構成される福井都市圏全体では約64万人」の人口規模になり。それが全くの車社会から、JRと私鉄を利用する社会へ変化し始めている、ということらしい。

 

「福井市は2009年に市民本位の公共交通構築を目指した『都市交通戦略』を策定。県も2011年に『クルマに頼り過ぎない社会づくり推進県民会議』を設立」するなど、この10年ほどにわたって、車社会を変えようという取り組みを行ってきた。

 

それが、「受け皿となる便利な公共交通ネットワーク構築と、マイカーから公共交通へ段階的に移行できる環境整備の2つのアプローチ」ということだった。

 

「路線バスの再編、駅を拠点とした地域フィーダーバスの設定」など、「県や沿線自治体は利便性向上のために多額の資金を投じている」という状況に至っている。

 

それが、徐々に実を結びつつあるということだろう。自宅からJRの駅まではマイカーで行き、そこから先はJRと私鉄を乗り継いで目的地に到着するという、「パークアンドライド」方式を大々的に推進している。

 

さらに2つの私鉄でも、営業区間が福井市から北部寄りの「えちぜん鉄道」と、南部寄りの「福井鉄道」が相互乗り入れをすることで、いずれも合計としての運行本数が増加することになったという。

 

また私鉄2社は、「乗り降りしやすい新型の超低床電車(LRV)を導入。停留所を移設・拡幅してバリアフリー化を推進」するなど、利便性の向上にも取り組んだ。

 

 

(福井鉄道のLRV)

 

こうしたことが、利用客数の増加に結び付いたということだった。車社会が公共交通を追い詰め、その結果、多くの地方では公共交通が衰退している現実がある。

 

しかしお題目としての「公共交通利用促進」キャンペーンではなく、現実的にできることを、着実に実施することで、少なくとも公共交通が〝衰退の一方″という状況は食い止めることができる、ということが実証されたということだろう。

 

やればできる、ということだ。そのために必要なことは、キャンペーンではなく、資金を投入してでも、現実的に公共交通を利用するための利便性向上を目指すことなのだ。

 

この記事を読んで、少しだけ心が明るくなった気がしている。