影響力は 監視力にも なる力   | がいちのぶろぐ

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環境問題と経営の接点、中小企業の戦略やマーケティング活動,
観光・伝統産業関連などについて、「がいち」が考えたこと、思ったことを書きとめてゆきます。

昨日は「インフルエンサー」と呼ばれる、その企業の商品やサービスに詳しくて、しかもそれをインターネットのSNSを通じて発信してくるような、影響力を持つファン層のことを考えた。

 

その続編となるが、もう少しそれを突っ込んで考えてみたい。というのも、先月にこのブログで、「ソーシャルイノベーションと企業の関係」について、かなり長く考えてみたので、そのテーマと「インフルエンサー」とが、どこかで接点を持つような気がしてきたからだ。

 

「インフルエンサー」の存在は、主としてマーケティングの目線で考えられているが、これがもし企業にとってマイナスイメージとなることを発信するようなことになれば、その企業や商品などに精通しているだけに、逆の意味で大きな影響力を持ってしまう。

 

例えば、その商品はとても素晴らしいけれど、その企業は、“従業員の働き方”という点では、このような問題を抱えている、といったことも、「インフルエンサー」と呼ばれるくらいの存在になれば、どこからか情報を入手するかもしれない。

 

そして、“私はその企業と商品のファンであるからこそ、もしそうした状態が本当だったら悲しい”といった情報発信だって、あり得るわけである。

 

こうなれば、単に「インフルエンサー」という存在は、マーケティングにおけるキーパーソンであるだけでなく、企業と社会の接点におけるキーパーソンとなってくる。

 

企業にとってのマーケティングの要素として、最近は顧客向けのマーケティングということと並んで、「インナー・マーケティング」という考え方が存在している。

 

自社の従業員との関係性を良好に保つことが、商品・サービスに関するマーケティング戦略と肩を並べるくらいに重要なマーケティング要素だ、ということである。

 

ここにおいて、企業の社会的責任(以下、CSR)という考え方とマーケティング戦略との整合性というか、両立性の問題となってくる。

 

ヤマト運輸が従業員の確保や働き方と絡んで、インターネット通販の企業との関係の見直しを図ることにしたことは、随分と大きなニュースになった。

 

 

 インナー・マーケティングとアウター・マーケティングの両立を考えると、止む終えざる選択であったということが言えるだろう。

 

よく言われる「三方よしの経営」という言葉がある。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の取引こそが“正しい”視点での取引だとして語られる。この「世間よし」の部分が、通常は日本版のCSRだとされているわけである。

 

しかし、これはもう少し突っ込んで考えると、“我よし(売り手よし)”と“相手よし(買い手よし+仕入先よし)”があった上に、“世間よし”が乗っかているわけで、考え方としてはハーバード大学のマイケル・E・ポーターが提唱している「CSV(価値共創)」という概念に近いような気がする。

 

CSRとして考えるなら、“売り手”の中には“従業員よし”を含めて考えないといけないのではないか、と思われるからである。

 

労働安全や過重労働、性差別などといった、CSRが本質的に要求しているポイントまでを含めて考えるなら、「三方よし精神」ではまだまだ不十分だと考えられるのではないだろうか。

 

インナー・マーケティングの重要性とは、この点に存在しているのである。“本業において『外面』が良いこと”が「三方よし精神」であり、その限りにおいて“CSV”という考え方に近い可能性を否定しきれない。

 

それに対して、CSRはインナー・マーケティングまでを含めた、内・外の全てを通じて一貫性がある「ものの見方・考え方」であるのだと思う。

 

もしそうであるとするならば、真の意味で企業にとっての「インフルエンサー」とは、商品・サービスに詳しく、企業事情にも精通している、きわめてロイヤルティ(忠誠度)の高いファン層ということになる。

 

単にSNSの上で商品やサービスの良さを、自分の言葉で語ってくれる“ありがたいファン層”という捉え方で、「インフルエンサー」を認識していれば、ロイヤルティが高く、企業を愛してくれているがゆえに、もし従業員を粗末にするような企業であるとわかれば、そんな企業や商品を好んだ自分が許せない、という“手のひら返し”だって起こしかねないと思う。

 

企業の社会的貢献=フィランソロフィーとしてみれば、大企業における色々な取り組みが進んできていることは間違いない。

 

しかし、途上国での植林といった環境問題と取り組んだり、市民団体の活動を支援したり、といった企業価値を上げる活動には積極的になれても、足もとの従業員の働き方や、本業において社会との接点で生じる様々な課題を軽視することがあれば、それこそ「インフルエンサー」によって、SNSにそのような事実が掲載されることにもなりかねない。

 

マーケティング戦略としては、SNSで自社の商品・サービスを本音で語ってくれる、有り難い存在である「インフルエンサー」は、言い換えれば、最も手ごわい自社のオーディット(監視者)でもある、ということなのだと思う。

 

昨日、「インフルエンサー」という存在の重要性を考えたのだが、踏み込んで考えれば、もっと真剣に向き合うべき存在なのではないかと思った次第である。