ソニーの夢よ 人を理解し よみがえれ | がいちのぶろぐ

がいちのぶろぐ

環境問題と経営の接点、中小企業の戦略やマーケティング活動,
観光・伝統産業関連などについて、「がいち」が考えたこと、思ったことを書きとめてゆきます。

今日配信のダイヤモンド・オンライン誌で、2本の記事が全く異なったテーマの記事でありながら、読み比べてみると、奇しくも同じ方向性を指し示していると感じた。

 

一つ目は、法政大学の真壁昭夫氏が書いておられた「ソニー好決算で『逆ソニーショック』は起きるか」という記事である。

 

この記事では、ソニーが平井社長の就任以来、事業の選択と集中を行い「経営資源を本業のエレクトロニクス事業に投入」した結果、「半導体事業は収益の柱に成長した。特に、カメラ用画像センサー(CMOSセンサー)は、世界でトップのシェアを誇る事業に成長した」ことが、今回の好決算につながったという。

 

 

しかし、「ソニーがかつて消費者に与えてきた、モノ(製品)を手にする喜びを高められているかどうかを考えると、その復活は道半ばと考えられる」とも書かれている。

 

ソニーという会社は、確かに“花形企業”だった。真壁氏も述べておられるように、「新しい製品のコンセプトを考え出し、それを実際のモノ=製品に落とし込むことで消費を刺激する力を持つ企業だった」からである。このことは疑いようもない。

 

真壁氏は記事の冒頭でも、「かつてソニーは、技術力とデザイン性の両方に強みを持ち、多くの斬新なヒット商品を生み出した」と述べておられるぐらいに。

 

“ウォークマン”しかり、小型ビデオカメラ“ハンディカム”しかり、平面型ブラウン管テレビしかり、なのである。

 

 

だから「ソニーは多くの人が『ほしい!』と思う商品を作り、需要を生み出すことができた」のだ。真壁氏も「そのためには、ロボットや人工知能(AI)、仮想現実(VR)などの今後の需要が期待される技術の開発を進め、『ほしい!』と思わせるモノを創り出すことができるか否かが問われる」と結んでおられる。

 

このようなソニーの状況に関する真壁氏の記事を読んだ後で、今度は大阪大学の石黒浩氏の「iPhoneが超高機能だったガラケーを粉砕できた理由」という記事を読んだ。

 

石黒氏は、ジェミノイド(遠隔操作型ロボット)という分野で、世界のトップを走っておられる。“そっくりさん”ロボットを製作し、テレビ番組「マツコとマツコ」でマツコデラックスさんの“そっくりさん”ロボットを路傍に置き、通りすがりの人と会話する、という実験的な番組にも参加されていた。

 

また、故・桂米朝師匠の“そっくりさん”ロボットを舞台に上げて落語を演じさせ、当時車椅子を使っておられた米朝師匠が、自分とそっくりのロボットの隣でそれを見ていて、苦笑とともに「気色悪いなあ。けどようできてるなあ」と感想を漏らされたこともあった。

 

 

 この石黒氏が記事の中で、「今から必要なのは、『人は本当に何を求めているのか』という、もっと人のことを理解した上でのものづくりです」と指摘しておられた。

 

ガラケーは、技術の粋を凝らして作られるところまでいったが、それは人間とのインターフェースという部分で、iPhoneにあっさりと負けてしまったのだという。

 

石黒氏はこの点を、iPhoneは「説明をしなくても、使い方は子どもでも直感でわかる。つまり徹底的に人間を志向したのです。ところが、日本企業は人間の本質を考えず、基本機能ばかりを追い続けてしまった」と述べておられる。

 

だから、「これからの研究はすべてにおいて、人間を深く理解しながら、ものをつくる方向にシフトします。(中略)ユーザーがそれをどのように使いこなすのか、その現実をリサーチしてさらに人間への理解を深め、それが改良のポイントになっていく」と、これからのモノづくりの方向性を見据えておられる。

 

また、「あらゆる工学的な技術はすべて人間のためにつくっています。人間を豊かにするため、人間を助けるためにつくられている」とも述べられている。

 

ところで、米朝師匠が「気色悪い」という感想を漏らされたことに関する回答となるのだろうが、石黒氏はこのようにも書いておられる。

 

「確かに機械が人間に近づくのは気持ちの悪いことなのです。人間はすごいスピードでこの気持ち悪さに慣れています。便利さ、わかりやすさのほうがずっと優っているわけです」と。米朝師匠、あと数回ご自分のロボットをご覧になっておられたら、きっと「ええなあ、これ」と仰っていたことでしょう。

 

つまりは、これからの「道具」は“人間臭さ”の中にこそ存在する“使いやすさ=人間との親和性”がポイントになってくる、ということだろう。

 

「僕たちの周辺にある道具という道具が、これからますます人間に近づいていく。人間っぽいコミュニケーションを取るようになることは間違いありません」と、石黒氏も結論付けておられる。

 

真壁氏がソニーのことを評された中で、ソニーはモノ(製品)を手にする喜びを人々に与えてきた、と考えておられた。だから、「ロボットや人工知能(AI)、仮想現実(VR)など」の技術開発を進めて、再び「『ほしい!』と思わせるモノを創り出す」ソニーとなることを願っておられた。

 

ソニーはかつて、犬型ロボット「AIBO」というヒット商品を生み出した企業である。いったん終わっていたロボット開発と再び取り組むらしいと、真壁氏も書いておられた。

 

 

 石黒氏が言われるように、「必ず『人間を理解する』ための研究と同時進行していく必要」があるのだとすれば、“ソニーの遺伝子”のなかにこそ、それが深く埋め込まれていると信じたいと思う。

 

2本の全く別のことが書かれた記事を、このように未来のモノづくりの方向性を指し示す内容として読むことができた。不思議な一致ではあるが、何が求められているのかが、少しわかるような気がした。