クロムミュオーンの牝猪 | Swift Servant for WONDER

クロムミュオーンの牝猪

クロムミュオーンの牝猪について調べている。
出典内容などはTHEOI PROJECTの丸写しから出発かなぁ。
http://www.theoi.com/Ther/HusKrommyon.html
ただ、ギリシア語表記に関しては、かなり疑問を感じる。

このサイトではὙς Κρομμυων(Hys Krommyon ヒュース・クロムミュオーン)と書いているけれども、どうも納得がいかない。
クロムミュオーンは地名だから、クロムミュオーンという形の形容詞にはならないと思うのだ。
ヒュースもクロムミュオーンも、男性形と女性形が同じだから、これでは本当に「牝猪」かわからない、という些末な疑問も残る。
まぁ、冠詞がつけば性が決まるんですけどね。

このサイトで示されている出典のうち、ストラボーンのものがこの場合参考になるように思う。
その箇所の原文(8.6.22)には次のように書いてある。
(Androidなど一部の端末では、表示できない文字が含まれます)

ἡ δὲ Κρομμυών ἐστι κώμη τῆς Κορινθίας, πρότερον δὲ τῆς Μεγαρίδος, ἐν ᾗ μυθεύουσι τὰ περὶ τὴν Κρομμυωνίαν ὕν, ἣν μητέρα τοῦ Καλυδωνίου κάπρου φασί, καὶ τῶν Θησέως ἄλων ἕνα τοῦτον παραδιδόασι τὴν τῆς ὑὸς ταύτης ἐξαίρεσιν.
また、クロミュオンは現在コリントス市に属する村だが、以前はメガラ地方に属し、ここには「クロミュオンのいのしし」にまつわる説話が伝わっている。話によると、この雌いのししはカリュドンのいのししの母親で、テセウスの功業のひとつ「いのしし退治」とはこのいのししを始末したことだと伝える。
(飯尾都人 訳)

着目するのは、"τὴν Κρομμυωνίαν ὕν"の部分。
ギリシア語は形容詞とそれが修飾する名詞の性、格、数が一致するという特徴があります。
τὴν は女性/単数/対格の冠詞、Κρομμυωνίανは「クロムミュオーンの(人)」を意味するΚρομμυώνιοςという語の女性形であるΚρομμυωνίαの単数対格、ὕνは男性形・女性形が同形であるὗςの単数/対格で「いのしし」という意味。

なんでΚρομμυωνίαという形だとわかるのかというと、このケースではΚρομμυωνίανという語が女性/単数/対格であるとしか考えられないから。
先にも書いたように、形容詞は修飾する名詞と同じ性/格/数をとりますから。
で、女性/単数/対格でΚρομμυωνίανとなるような女性/単数/主格の形容詞はΚρομμυωνίαとなるハズだ、と考えます。

一方で、Stephanus Byzantinusのクロミュオーンの項目を見ると、"ὁ πολίτης Κρομμυώνιος.(ここの市民はクロムミュオーニオス<と呼ばれる>)"と書いてあり、この女性形だったらΚρομμυωνίαかΚρομμυωνίηだろうなぁ、とも思っていたのです。

つまりそれを単数/主格にした、Κρομμυωνία ὗς(Krommyoia hys クロムミュオーニアー・ヒュース)の方が妥当ではないか、と思ったのでした。