ある方から「お題」をいただいた。

勉強は何のためにするのか?

子どもは理解しているのか?

学校では説明をしているのか?

大変難しい「お題」である。

私の手には、もちろん、負えない。



それでも、頑張って考えてみると、「勉強は何のためにするのか」との問いに対しては、「将来の可能性を広げるため」と答えるかな。

卑近な例でいえば、世の中にある職業の中には「大学を出ていないとなれない」職業もある。大学に行くためには勉強した方がいい。

また、もっと抽象的なところでいえば、将来どんな職業についていいのか分からないという子どもにとって、「勉強」の中にはヒントがたくさんあるはず。私自身も、弁護士になろうと思ったのは法律が面白いと思ったからだし、「法律って面白いかも」と思ったのは中学校の「公民」の授業であった。授業で勉強しなかったら、法律に興味を持つことは難しかったと思う。


でも、この程度の説明では納得してくれないかもしれない。そこで、この点について、内田樹先生(神戸女学院大学文学部教授、フランス現代思想)の見解を紹介し、お茶を濁す、じゃなくて、ひとつの考え方を示せればと思う。


まず、内田先生によれば、「教育から受益する人間は、自分がどのような利益を得ているかを、教育がある程度進行するまで、場合によっては教育過程が終了するまで、言うことができない」注1

 つまり、「勉強が役に立つかどうかは、勉強してみないとわからない、もしくは勉強し終わってみてからじゃないとわからない」ということだ。


また、そもそも「学ぶことは何の役に立つのか?」という質問は、「想定外」の質問だとする。

「世界には戦争や災害で学ぶ機会を切望している数億の子どもたちが無数にいます。他のどんなことよりも教育を受ける機会を切望している数億の子どもたちが世界中に存在することを知らない子どもたちだけが『学ぶことに何の意味があるんですか?』というような問いを口にすることができる。そして、自分たちがそのような問いを口にすることができるということそのものが歴史的に見て例外的な事態なのだということを、彼らは知りません。」「『どうして教育を受けなければいかないのか?』と問う小学生は『自分が学びの機会を構造的に奪われた人間になる可能性』を勘定に入れていません。自分が享受している特権に気づいていない人間だけが、そのような『想定外』の問いを口にするのです。」注2)


「『どうして教育を受けなくちゃいけないの?』という問いに対しては、そのような問いがあるとは想像もできず絶句する、というのが大人の側としては当然の対応のはずです。」「しかし、残念ながら現実はそうなってはいません。大人たちもまた『そのような問いかけはあってしかるべきだし、その問いに対して、子どもたちにもわかるような答えがなければならない』と考えている。これが最初の、最大の『ボタンのかけ違え』だと僕は思っています。答えることのできない問いには答えなくてよいのです(注3)


「『何のために勉強するのか?この知識は何の役にたつのか?』という問いを教育者もメディアも、批評性のある問いだと思いこんでいます。現に、子どもからそういう問いをいきなりつきつけられると、多くの人は絶句してしまう。教師を絶句させるほどのラディカルでクリティカルな問いなんだ、これはある種の知性のあかしなのだと子どもたちは思い込んでいます。そして、あらゆる機会に『これが何の役に立つんですか?』と問いかけ、満足のゆく答えが得られなければ、自信たっぷりに打ち棄ててしまう。しかし、この切れ味のよさそのものが子どもたちの成長を妨げているということは、当の子どもたち自身には決して自覚されません。」注4)


結局のところ、「何のために勉強をするのか?」という問いに答えるという行為は、「捨て値で未来を売り払う子どもたちを大量に生み出して」注5)しまうことになる、というのが内田先生の見解かと思う。

たとえば、子どもから「何のために勉強をするのか?」と問われて、「いい大学に入って、いい会社に入って、たくさんお給料をもらうため」などと答えたとする。しかし、子どもは「別にいい大学に入りたくもないし、お給料をたくさんもらいたくもない」と思ったならば(納得のゆく答えが得られなければ)、勉強することは自分のためにはならない、と思うわけだ。ところが、「答え」を聞いて判断するということは、その前提として「判断」が正しいということが絶対条件だが、そもそも正しい判断力をつけるために勉強するのである。正しい判断力のないところで行った判断がどのような結果をもたらすのかは明らかだ。このような事態を「捨て値で未来を売り払う」というふうに表現しているものと思う。



 さて、冒頭の問いに戻って、「何のために勉強するのか?」と聞かれたら、何と答えるだろう。

 ひと昔前だったら「つべこべ言わずに、おまえは頭が悪いんだから、黙って勉強してればいいんだよ」くらいのことを言う親がいただろう。

私は、これをもって「お題」の答えとしたい。ニコニコ



(注1) 内田樹著「下流志向」(講談社)p.46

(注2) 前掲(1)P.35-36

(注3) 前掲(1)P.34-35

(注4) 前掲(1)P.76

(注5) 前掲(1)P.77