このシリーズの最終回。前回に引き続き、「 平成19年度『全国学力・学習状況調査』分析報告書 」の中からの紹介である。


Ⅰ 今回は、報告書の中の「学力の規定要因の地域間比較-地域に応じた行政施策・教育実践を探る-(第3章)にふれてみたい。

 これは、千葉県内をA地域とB地域に区分して、両者の児童の学力の規定要因を分析・比較するものである。

【A地域】は、1人あたりの市町村民税(個人)の年間所得割が11万円以上の市町村

【B地域】は、1人あたりの市町村民税(個人)の年間所得割が11万円未満の市町村

と分類する。

 11万円を基準にしたのは、千葉県内の市町村平均9.8万円を手がかりに、1人あたりの年間所得割額の市町村分布を見たときに、11万円を前後に分断が観察されたためである。


 

Ⅱ A地域とB地域を比較分析した結果は以下のとおり。

A地域では学校規模が大きいほど、児童の学力が高くなるのに対して、B地域では学校規模が小さいほど、児童の学力が高くなる。

A地域では学校の教師の平均年齢が低いほど、児童の学力が高くなるのに対して、B地域では、教師の平均年齢が高いほど、児童の学力が高くなる。

B地域においては、学校が学力向上事業の指定をうけることが児童の学力向上につながる。

B地域においては、学校が単元テストの分析や授業研究に積極的であることが、児童の学力向上につながる。

発展志向の学習指導は、地域にかかわらず学力と正の関連を有しているが、補充志向の指導はA地域においては学力と負の関連を有している。



Ⅲ この結果、どうだろうか。私は素直に驚いた。

 例えば、①について。一般的に学校規模が小さい方が11人の児童に指導が行き届き、成績が上がるという印象がある。だから、少人数教育なども提唱されるわけだ。しかし、これについて報告書では次のような分析をしている。A地域は人口密度が高い地域で、しかも、第三次産業(サービス業等)の従事率が高い地域である。第三次産業従事率が高い地域では、保護者の教育関心が平均的・相対的に高いことが予想され、その結果、児童が学歴・学力の重要性を認識しやすい。以上のことから、A地域の児童は、周囲に多くの他者がいる環境で、学力獲得志向が高く、学力獲得に向けた同級生との競争志向が高くなるということが予想される。そのために、学校規模が大きいほど、同級生と切磋琢磨することで高い学力を獲得するという可能性がある、というのだ。なるほど。

 さらに②について。ベテラン教員が多いほど単純に学力向上につながるというわけではないようである。地域の状況によるというわけだ。

 そして③についても。学校向上事業の指定を受ければ、それに伴い予算などがつくので、A地域にとっても学力向上につながるのではないかと思われるのだが・・・。この点について、報告書では、学力向上事業の指定が、予算や人的資源の重点化、あるいは教師たちの一致団結した教育指導をもたらすことが多いことを考慮すると、B地域の学校は、より多くの予算や人的資源、教師の「手厚い指導」を必要としていると解釈することができる、とされている。要するに、学力向上事業の指定は、B地域にとってより効果的ということだ。



Ⅳ 前回の「全国学力テスト②」で見たように、第三次産業従事率や平均所得が高い方がテストスコアの平均が高い。ということは、逆のパターンではテストスコアは低いということである。

 ここで分類したB地域は、第一次・第二次産業従事率が相対的に高く、平均所得も相対的に低いという地域であり、上記の「逆のパターン」に当てはまる。

報告書の分析は、こうした地域における学力向上のための施策のあり方について考えさせられるものだ。

報告書はそこまで言っていないが、A地域の学校は、学校規模が大きくても(というか大きいほうが)、教師がベテランでなくとも、学力向上事業の指定を受けなくても、テストスコアが高いわけで、ある程度、自助努力で学力のレベルを維持できるということである(かといって全く放置してよいとまではもちろん言えない)。


話を最初に戻すが、そもそもの全国学力テストの目的は、「国が全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」ということであった。 

格差があっては、真の「義務教育の機会均等」は図れないのであるから、格差を解消するための施策を、この学力テストのデータから導き出すことは、国の義務である。

何度も言うが、60億円以上の、国民の税金が使われているのだから。がま口財布



 

 平成19年度『全国学力・学習状況調査』分析報告書のダウンロードは下のホームページから↓

 http://www.p.u-tokyo.ac.jp/kikou/chiba.htm