島々の「移管」か「返還」かの問題が、主権をめぐる問題を起こしている

     

 

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【訳者注】ロシアとの平和条約を結ぶべき時がきている。しかもそれは、ゆっくりはできない。世界の情勢は、昔のままの形で継続しているのでなく、急激に変わっている。アメリカの衰弱は明らかだが、昨今の様子を見ていれば、アメリカは正常でなく、狂気・非常識の戦争に突っ走る可能性は十分にある。先日の中距離核戦力全廃条約の破棄などもその一つだが、そもそもロシアを滅ぼさねばならないという彼らの信念と、それが現実的に準備されていることが、恐ろしい狂気である。ロシアに取ってそれは現実だが、日本人は、そんなことは起こらないと、たいていは考えているだろう。アメリカの自暴自棄は現実である。今この時期、それをよく知っているプーチンの提案に従うべきであろう。我々がロシアと平和条約を結ぶことは、世界に異変を起こすことで、大災難を未然に防く可能性は大きく、たとえ大戦争が起こっても、それを小さく食い止める役割を果たすことができるだろう。プーチンが北方領土にこだわり、気を遣うのは、そのような懸念と希望からだけであって、領土的野心などというものを持たないのは、その度々の言動から明らかである。

 

 

コバヤシ・ジュンノスケ、日経ライター

November 17, 2018

 

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安倍首相とプーチン露大統領が、1114日、1956年の日本-ソ連の共同宣言に基づく、第2次大戦後の平和条約に向って作業を始めることに合意した。(ロイター)

 

 

 

東京発――日本とロシアは、長年の懸案の領土問題に関する交渉の、出発点には合意したが、双方がこの問題で用いる用語が異なっているために、彼らが全く同じ土俵に立てないことが明らかになった。

 

日本首相安倍晋三と、ロシア大統領ウラジミール・プーチンは、水曜日、1956年の日本とソ連の共同宣言に基づく、第2次大戦後の平和条約に向って、交渉を加速させることに合意した。この文書は、問題の南クリル諸島4島のうち2島――色丹と歯舞――は、条約の締結後、日本へ “移管される” (transferred) べきものと規定している。

 

しかし、2人の指導者は、これがどういう意味であるかについて、考えが異なっているようだ。この宣言は、色丹と歯舞を「ソビエト連邦は譲る(cede)用意があると明記している」が、この島々のその後の司法権については、「何も言っていない」と、プーチンは、木曜日、記者団に話した。

 

大統領は、このロシア語の用語を、1956年宣言と同じ、所有権を手渡すという潜在的な意味に使っており、その文書では、それはtransferともhand overとも翻訳されている。彼のコメントから考えると、モスクワはこの言葉を、必ずしも国家主権の交換を意味するとは、考えていないらしい。

 

日本は異なった見方をしていて、思考上の手渡しを「返還」returnと呼んでいる。

 

色丹と歯舞が日本に返還されれば、この島々に対する国家主権は「当然のこととして」承認されるだろうと、日本の内閣官房長官・菅義偉は、金曜日、記者団に話した。

 

日本は、韓国に対して、この反対側(返す側)に立っていたことがあり、そのとき2国は、植民地時代に日本政府の所有物になっていた書籍や文化遺産について、交渉をした。韓国はこれらの財産について「返還」と言い、日本側は、本来の所有権への引き渡しは合法的だとして、この行動を手渡しとするのが望ましいと考えた。書籍を韓国に送り返すことを規定して、2011年に発効したこの合意は、「移管」transferという言葉を使った。

 

日本の外務省は、国際法では、「移管」と「返還」の間に意味の違いはないと言っている。しかし、もしかりに、1956合同宣言に「返還」returnという言葉がなく、それが日本とロシアの間で、この文書を別々に解釈させていたのだとしたら、この2つの言葉は、同義語になっていないかもしれない。

 

これは、言葉遣いが大切な唯一のポイントではない。1993年の日露関係東京宣言以来、日本政府は、4島の「帰属問題」attributionが、平和条約の締結前に、解決していなければならないという基本的立場を堅持してきた。安倍はこの同じ言葉を、金曜日の記者会談で用い、「平和条約の交渉は(問題の4島の)帰属問題を含んでいる」と言った。

 

日本政府はこのような言い回しを用いてきた(注:訳者は正確には知らない、帰属問題でないかもしれない)。これは、4島がどちらの所有物かを言うことを避けるためで、もっと露骨に、ロシアは日本の主権を認めよ、と要求することは、モスクワを交渉のテーブルから遠ざけかねないからである。

 

しかし日本の努力にもかかわらず、4島の位置づけの問題が生ずるたびに、交渉は紛糾してきた。例えば、1998年の、当時の首相橋本竜太郎によって出された提案は、日露の国境を問題の島々の北に引くが、この領域をロシアの行政下に置くことであった。モスクワはこれを受け入れることを拒否した。それは、この島々を日本に帰属させることになるからだった。

 

ロシアが言葉遣いに神経質なのは、一つには、この紛争を安全保障問題と見ているからである。日米地位協定の第2条は、米国は「日本における施設建設や領域の使用」を許されていると定めている。モスクワは、アメリカのミサイル防衛システムの、日本での配置に反対していて、もし問題の島々を日本が所有すれば、この領域にワシントンが軍事基地を建設することを、許すことになるだろうと言っている。

 

日本は、両政府間の交渉なしには、日米地位協定の下でも、施設を建設することはできないという立場をとっている。アメリカ軍は、日本の合意がなければ、どこでも好きな所に基地をつくることはできない、と日本政府は言っている。

 

                             ——以上

 

PDF: http://www.dcsociety.org/2012/info2012/181119.pdf