【訳者注】哲学者・詩人的な資質をもつジャーナリスト、アンドレ・ヴルチェクの最近の傑作と言ってよいだろう。中に、日本人には不評かもしれない、北朝鮮に触れた部分があるが、ここに言われている事実は一般には知られていないことで、高所からの観点を取り入れるべきかと思う。訳者の私は、彼の知識も大量の経験ももちろん持たないが、我々の立っている歴史的位置のとらえ方については完全に一致する。我々は筋書きの基本的にはきまった、宇宙的悲劇の大詰めに立ち会って(参加して)いる。これは歴史の大転換期といってもよく、苦しみの後に喜びがやってくる。こういうことは、新聞記事のような書き方では伝えられず、彼のような豊かな感性と文体によってなしうることだと思う。私を特に感動させるのは、「裁判も罰もいらない、これまでの膨大な悪事の償いもいらない、ただ、今やっていることをやめてほしいだけだ」(大意、下p.4)と言っているところである。

 

 

Andre Vltchek

March 24, 2017, Information Clearing House

 

パリで仕事をしている、あるアジア人の友人から最近こう言われた――「最近、私は、アメリカやイギリスで、そしてここフランスでさえ、政治的に起こっているほとんどすべてのことを、後追いすることをやめてしまった。突然、それはとても馬鹿々々しく、時間の浪費にみえてきた。」

 

このような述懐は、ほんの10年ほど前まで考えられなかったであろう。過去には、ワシントンから、そしてある程度ロンドンからやってきたことは、世界中が大いに関心をもち、また心配しながらモニターしていたものだ。

 

ところが突然、急激にそれは変わり始めた。西洋世界の企みつくり出す、グローバルな体制の極端な乱暴さが、何十年、いや何世紀と、世界のあらゆる場所に押し付けられてきたにもかかわらず、アジア、ラテンアメリカ、そしてアフリカの、ますます多くの人々が、心配することをやめ、“バリケード”にゆっくり近づき、“世界秩序”が間違っていることを非難するようになった。

 

そうしたことが本当に“突然”起こったのだろうか?

 

それとも、すでにかなり前から、さまざまな触媒がそこに働いていたのだろうか?

 

どんなことでも、根深く慢性の不安になっているものが、短期間になくなるものでないことは、よく知られている。奴隷化され、屈辱を与えられ、脅されて従っている人々、強制されて不安になり、絶えず怯えている人々は、何か重要な外的な要因、または要因のセットがなければ、彼らの精神状態を逆転させることはできない。

 

絶えずあらゆる大陸で、また世界のほとんどすべての戦闘地帯で、仕事をしてきた私によく分かってきたことは、いま何百万の抑圧された人々に精気を与えている、新しい誇りと勇気は、ほんの数か国の大小の国の示した、勇敢で、決然とした態度からきているということである。

 

「帝国」が全能だという神話は、いくつかの大きな打撃を受けている。

 

無敵だという物話は、まだ完全に消えたのではないが、少なくともそれは、ひびが入り、深刻に傷ついている。

 

恐ろしい牢獄の門がきしみ始めた。それは崩壊してはいないが、亀裂が大きく、かなりの日光が暗闇に侵入し、何十億という不幸な虐げられた人々の住む、恐ろしい洞穴にまで届いている。

 

犠牲者のある者はすぐに立ち上がった。多くはないが、ある者たちはそうした。別の者たちは、土の上に横たわりながら、鎖につながれ、まだ震えているが、わずかの希望に両手を差しあげた。地下牢に入ってきたその光だけでも、ほとんどの人々が全人生で経験した光より、実は遥かに明るい。それは、驚くべき希望の炎になるほどの強烈なものだ。

 

                  *

 

ブラジルやアルゼンチンのように、いくつかの一時的な逆行はあるものの、反帝国主義連合は、今これまでになく強力になっている。それは決然として、たえず拡張している。

 

そして明らかに勝利している!

 

それは確かに、大小、赤や“ピンク”、“グリーン”まで含めた国々の“レインボウ同盟”である。

 

唯一の共通要素は、西洋の帝国主義とネオ植民地主義に支配されないという、共有の決意である。

 

数十年間、キューバは、「帝国」に対して立ち上がり、ソ連ブロックが崩壊した後も、すべての相互合意が、犯罪的なエリツィン政権によって順守されなくなったときも、崩れはしなかった。キューバ国民は決して譲歩しなかった。それは、彼らのほとんどが心の底から、社会主義と国際主義を常に信じていたからである。それはまた彼らが、西洋帝国は道徳的に腐敗した、不法な存在であり、したがって抵抗すべきだと確信していたからである。

 

小さくて、比較的貧しい国であるキューバは、全世界に対して、この帝国は強く、サディスティックで残忍かもしれないが、全能ではなく、挑戦することが可能なことを示した。挑戦してならない理由も、より良い世界を夢見てならない理由もない。真の自由を勝ち取り、勝つことを試みていけない理由もない。

 

キューバが世界に勇気を与えた。その勇敢な革命は、アメリカの海岸からほんの数マイルのところで起こった。その後すぐに、その教師や医者たちが、地球のあらゆる場所をめぐって、楽観主義や連帯や親切さを教えた。その英雄的革命家たちは、コンゴ、アンゴラ、ナミビアのような国で人々を苦しめていた、最も恐るべき植民地の形態と戦うために出かけた。

 

オバマが、キューバ市民の決意を水で薄めようとした後、多くの敵が冷笑的にこう言って、予測し始めた――

 

「きっと今に、キューバは妥協して、自分の革命を売りに出すだろう。」

 

決してそうはならなかった! この宣伝が昨年、キューバ島にやってきて、各地をまわり、ハバナ、グアンタナモ、それにサンチアゴの民衆に話しかけた。ほとんど誰も妥協しようという者はいなかった。レベルの高い教育国であるキューバは、帝国の罠や騙しを見抜いた。

 

現在、ほとんど誰も“キューバの妥協”を口にする者はいない――話すべき内容が全くないからである。

 

地球上の最古・最大の文明の一つである中国は、恐ろしい“屈辱”の時期を経験した。西洋によって分割され、占領され、略奪された中国は、それを決して忘れても許してもいない。

 

・・・

 

そのような決意は、この惑星上の他の多くの国家に希望を与えている。そのメッセージは明らかである:――西洋はこれ以上、好き勝手をすることはできない。もしそれを試みるなら、やめさせる。説得がだめなら力によって! ロシアもまた再び準備をしている。それは中国の隣に、巨大に、怒りに燃えて立っている。

 

ノボシビルスク、トムスク、ハバロフスク、ウラジオストック、また、カムチャツカのペトロパブロフスクに行ってみられるとよい。そこでロシア人と話してみれば、ほとんど誰も、西洋を信じも尊敬もしていないことが分かる。歴史を通じて、ロシアは西洋から攻撃され略奪された。何百万、何千万というその国民が、殺され、文字通り絶滅させられた。そして今、この国は、もう一つの差し迫った攻撃と思われるものに直面している。

 

中国人民と同じく、ロシア人も、もはや妥協するつもりはない。昔のロシアの、アレクサンデル・ネフスキーの宣言した予言が再びよみがえってくる:――

 

行ってすべての外国に告げよ。ロシアは生きている! 平和のうちに我々に近づく者は客として迎えられるであろう。しかし手に剣をもって近づく者は、剣によって死ぬであろう! その上にロシアたる我々は立ち、永久に立つであろう!

 

ロシアでも中国でも、その他、西洋の略奪者によって荒廃させられた多くの国は、何も忘れられをおらず、誰も忘れられていない。記憶が消えたように見えるのは、ほんの一時である。それは決して消えない。人は、国土全体を焼き、都市を破壊し、野を焼き尽くし、なお道徳に従う者のふりをすることはできない。あるいはチリで言われるように、「正義は時間を取るが、必ずやってくる!」

 

そして世界は見ている。それは突然、この道徳的に強い国々という決然として勇敢な立場を、明確に表し始めた。見ている者の多くは、目の前に現れたものに強い感銘を受けている。ロンドンやパリでは、そうでもないだろう。しかし、ヨハネスブルグやベイルート、カルカッタやカイロ、ブエノスアイレスなどに、行って人々に訊いてみるがよい。どんな答えが返ってくるか、ほぼ想像できるだろう!

 

近代史を通して、一度たりともイランが外国を侵略したことはない。にもかかわらず、その世俗的で、進歩的、民主的な政府(モハメド・モサデグの指導による)は、CIAの援助するクーデタによって、1953年に倒された。それに続いて、“西洋びいきのシャー”の暴政、次に恐ろしい戦争、これも西洋の応援を受けたイラクによる侵略が起こり、何十万という人命が失われた。それ以来、イランは(西洋とイスラエルによる)科学者謀殺、また外国のテロリストや攻撃に苦しんでいる。

 

イランは、膝まずいて憐れみを乞うのでなく、西洋に挑戦した。いくつかの場合、挑発されれば、アメリカ近海の中立海域に、イランは戦艦を送った。そしてもし攻撃されるようなことがあれば、国土を護ると宣言した。

 

イランはまた、ラテンアメリカに大いに連帯感を示し、そのほとんどの革命政府と緊密に連携した。彼らはベネズエラの大きな危機のさいに、この国を強く支援し、カラカスに社会的住宅を建て、他のあらゆる方法で“プロセス”を支援した。

 

ラテンアメリカでは、前イラン大統領マフムド・アフマディネジャドが、彼の親友、ベネズエラの指導者ウゴ・チャベスの葬儀に参列するために、カラカスにやってきたことを、誰も忘れることはないだろう。この式典の最中に、チャベスの年老いた母が、突然、泣きながらアフマディネジャドに近づいた。自分が代表していたシーア派国家のすべての規則を破って、このイラン大統領は彼女を抱擁し、彼女が泣きやむまで離さなかった。

 

この一瞬は、一つの単純で強力な現実を体現している。我々のすべて、国際主義者で反帝国主義者は、人類とこの惑星の存続のために戦っているのだということを――。我々を引き裂くものより、我々を結束させるものの方が強いのである。ひとたび我々が勝利すれば、そしてそれは確実だが、世界は共通の言語を見出すことができるであろう。西洋は、“フェイク・ニュース”や作り事を用いて、敵意や不信をまき散らすことによって、我々を切り離そうとする。しかし我々はそのゲームを知っている。我々はもはや、隊伍を乱すことはないだろう。

 

西洋は明らかに敗北している。それを自分で知っている。それは恐慌を起こしている。

 

そのニヒリズム、そのプロパガンダや洗脳戦略は、まもなく敗退するだろう。